女の子と初めての食事

 手を繋ぐと言う行為をなんとか慣らしながら、ようやくファミレスへ着いた。


 悠と千夏は席に座り早速メニューを見る。


 前世はデブだったと言う事もあり、悠は食べ過ぎないように控えているが、目の前にいる女の子は違った。


「えーとチーズハンバーグとカラチキンにライスにピザもいいわね!後は––––!」


 悠の事を忘れたようにメニューを見つめる千夏に苦笑する。


「そういえば自己紹介の時食べるのが好きって言ってたけど本当に好きなんだな……」

「べ、別にいいじゃん!」


 千夏は素の顔を出し、赤くなる。


(やばい。可愛い。ギャップって言うのかわからないけど、可愛い。)


 千夏の可愛さに頰を緩める。


「何?じっと見てるけど。」

「いや、なんでもないです。」


 苦笑しながら悠も再びメニューに目をつける。


「じゃあ、デラックスハンバーグってやつでいいかな。」

「悠君。」

「えっ、何?」


 突然真剣な顔で見つめられる。


「チーズハンバーグ半分あげるからそっちも半分頂戴。」

「い、いいけど。」

「やったー!」

「そ、そりゃ、よかった。」


 満面の笑みで喜ぶ千夏を見て、悠もなんだか嬉しくなる。


「それじゃあ頼もうか。」

「そうね。」


 そう言った後。店員を呼び、注文していく。


 注文し終わり、ふと千夏を見ると、とある人物に重なって見えた。


(もし、前世で俺が鶴山と付き合ってたらこんな感じだったのかな……?)


 茅根千夏の母親であり前世の悠……負拓の初恋相手の鶴山春。


(これが運命って言うのかな?)


 前世で恋した相手の娘が隣の席にいた。そしてたまたま裏の顔を見てしまい、偽物の関係だが付き合う事になった。偶然ではすまない。


 でも、今ここで真剣に考えても千夏の迷惑になるだけだろう。悠はこの事を忘れるように努力する。



 しばらくすると料理が運ばれてくる。その時の千夏の瞳はキラキラしていた。


「……はい。半分あげるよ。」

「ありがと。私も–––。」

「いや、いらないよ。俺。そんな腹減ってないし。まぁでも食べれないなら食べるけどな?」

「ううん。食べれる。」


(普通、この流れなら渡すもんだと思ってだけど……腹減ってないのは本当だし、いいか。)


 そう言う千夏の前にはチーズハンバーグ、カラチキン、ライス、ピザ、そしてデラックスハンバーグ半分が並んでいる。




 それを順番に食べていく千夏に再び苦笑する。


(本当に食べれるだな。それはそれで可愛いが。)


 自分は実に単純だと悠はそう思いながらも幸せそうに頬張っている千夏を見つめる。


「………食べるの早いね。」

「そりゃあれだけだからね。」


 既に悠はデラックスハンバーグを食べ終わっている。


 待たせている事に罪悪感を覚えたのか、千夏はピザを半分ちぎり。


「はい。半分あげる。」

「えっ?いいよ別に。」

「あ、げ、る。」

「あっ、はい。いただきます。」


 仕方なく受け取り口に入れる。

 千夏はそれを見て微笑む。


(幸せだな。)


 悠は思う。もし、これが夢だったら。覚めないでくれって。

 それほどに幸せを感じていた。

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