ただし、イケメンに限る

 放課後。約束通り、悠は千夏と帰る事になった。


 今日は悠が教室を掃除する当番で、メールで千夏から『ロッカーで待っている』と来ていた。悠はそのメールを確認した後、掃除をしようとしたが………。


「おいおいー。どっちから告白したんだー?」

「なぁ教えてくれよ〜。どうやって恋人作るんだー?」

「新垣さーん。教えてよ〜」


 悠の周りにクラスメイトの男子達が集まり、一斉に話しかけてくる。


(だるい。これが可愛い彼女と付き合ったイケメンの宿命なのか……)


 悠もまだ負拓だった頃。イケメンのクラスメイトが可愛い彼女と付き合いだし、質問攻めされていたのを隅っこの席で見ていた。


(あのリア充達はもっと褒めろとか内心思ってわざと質問攻めされてたって思ってたけど、実際はそんな事なくてめんどくさいんだな。)


 また一つ。リア充の心得を会得する。


 この1ヶ月の間。秀馬からさまざまな知識を得たと満足していたが、まだまだ知らない事があると再認識する。



「あー。もう教えてやるからよく聞けよ?」

「ごくり」


 みんなが唾液を飲み込んだ音を聞いて、悠は少し息を吸ってから。


「ただし、イケメンに限る。」

「はっ?」


 俺の発言に一瞬男子が固まる。その後、「この野郎〜!」と言いながら悠に突っかかる。


「ちょ!悪かったよ!冗談だって!!」

「イケメンが言うから妙に説得力あんだよ!」

「冗談じゃ済まねーぞ!」

「あ、あははは……」


(クソ!発言を間違えたか!? ……リア充はどうやってこの場を乗り切っているんだろ……)



 悠は男子に突かれながら苦笑する。


(まずい!本当に掃除できねぇ!)


 イケメンに限ると完結させ、追っ払う作戦が失敗に終わり、悠の掃除時間は長引いた。




 ***


「………遅かったじゃない。」

「すみません……。」


 5分で終わる掃除を20分の時間をかけ、急いでロッカーへ向かうと、不機嫌な顔をした千夏が立っていた。


「ちょっとみんなに絡まれてました。」

「そう。 ………それじゃ行こっか!」


 不機嫌だった黒千夏から元の明るい千夏に戻り、悠の手を繋ぐ。


「え、えぇっ!!て、手も繋ぐの!?」

「見せつけて行こうよ〜」

「じょ、しょ、初日から手を繋ぐもんじゃな、ないだろ。さ、さすがに……。」


(てか、千夏ちゃんの手柔らか!!えっ、何?触れてるだけなのに更に可愛く見えてくるんだけど!?あーやべー!前世含めて42年間童貞の俺には刺激が強すぎる!!)


「あっ、帰る前にファミレスよって行こうよ!」

「そ、そそそそ、そうだね!」

「えっ……どうしたの?」


 言動がかなりおかしい悠に流石の千夏もドン引きする。


 なんせ悠はうまく言葉を発せず、動きもロボットみたいにカクカクだからだ。


(落ち着け!落ち着け!!俺!!これからも続けて行かなくちゃならない事なんだ!だから落ち着け!!)


 悠は自分に言い聞かせながら、千夏とファミレスへ向かった。

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