関係の変化

 始業式から約1か月が経ち、少しだけだが悠達の関係に変化があった。


 悠の斉藤秀馬が気軽に話し合える仲となった。

 最初は秀馬のノリに合わせるのに苦労したが、なんとか話せるようになり、悠の初めての友人になった。


 茅根千夏とは隣人さんと言ったような感じで、少し話す程度だ。前世では大のコミュ障だった悠には女性と話すのはまだ難しいかった。


 丸井隼人とはまだ喋る事が出来なかった。話そうとしたが、隼人から放たれている話しかけづらいオーラに悠は手が出せなかった。


(俺も前はこんなんだったのかな……)


 悠はそう思いながら、一旦隼人に近づくのは諦め、少し日が経ってからまた話しかけようと決めた。




 ***


 今日の午前の授業も終わり、悠は秀馬と食堂に向かっていた。


(ん?あれは……)


 廊下を歩いていると窓の外にとある人物を見つけた。


「秀馬。先に食堂行っててくれ。」

「おう。」


 秀馬が行ったのを確認して、窓を少し開ける。


「–––めんどくさいだよ。」

(えっ!?)


 とある人物が絶対に言わなさそうな言葉に悠は驚き、とっさに窓の下に隠れる。


「私が普通に接してたら、寄ってたかって男子どもが集まりやがって。みんなの相手をしてるのも疲れるのよ。」


 どうか人違いであって欲しい。悠はそう願いながら窓の外を覗き込む。


(やっぱり千夏ちゃんだ。)


 千夏の見てはいけない部分を見てしまった悠は激しく動揺する。


(じょ、女子って裏はみんなあぁなのか?裏で誰かの悪口を言ってるのか!?)


 違う。そう願って悠は決断する。


「か、茅根さん?」

「あぁ?」

「ひ……」


 千夏は悠の存在に気づき、窓側を見る。


(あ、あんな低い声の千夏ちゃんは初めてだ……)


「今の……聞いてた?」


 声はもとの明るい千夏の声に戻り、悠に聞いて来る。


(ご、ごまかさないと!)


「な、何の事かな?お、俺は何も聞いてないな〜」

「……………」

「––––嘘です。聞いてました。すいません。」


 急に怖い顔になった千夏に負け、悠は言葉を漏らす。


「……はぁ。この事、誰にも言わないでね?」

「あっ、はい。絶対言いません。」

「–––それにしても最悪。君にこんな弱みを握られるなんて……」

「弱み?」


 悠は気づかなかった。千夏が知られたくない一面を知った事を弱みを握ったと実感していなかった。逆に、千夏のまずい所を見てしまってやばいと思っている。


「弱みはなんの事かわからないけど、お、俺に本音で話せるじゃん。」

「はっ?」

「1人で抱え込むのはしんどいだろ。だ、だから、俺も茅根さんの愚痴を一緒に聞いてやるよ。」


(やばい。上から目線で言ってしまった!)



「あっ、えーと。何かあったら俺に相談してね?いつでも聞くからさ?」

「––––みんな私に期待しすぎ。」

「えっ?」

「愚痴よ。愚痴。私、周りからなんて言われてるか知ってる?」

「––––理想の女子高生。」


 いつも明るく優しい。男子の理想像。この話を聞いた時、悠も納得していた。


「疲れるのよ。みんなの理想になるの。君だってそう思わない?」

「うん。俺も同じ立場だったらそう思う。」

「だからたまにここで愚痴を吐いて発散してたの。笑ったら?」

「いや、笑わないよ。笑う要素どこにあるの?」

「えっ?」


 悠は真逆の立場だが、前世でみんなの愚痴を裏でたくさん言ってきた。

 前世で陰口言われ、それをずっと耐えて来た今の悠にはわかる。


(立場は逆だが、わかる。)


「ずっと辛かったんだろ?なら吐いてしまえよ。全部。すっきりするくらい。」

「幻滅とかしないの?」

「するわけ無いよ。むしろ、その方が人間味があってより、共感できるよ。」

「………そうね。わかった。君に全部吐く事にするよ。」

「うん。あっ、そろそろ俺行くからまた後でな。」


 そう言いこの場から去ろうとした時だった。


「新垣くん。」

「うん?」

「連絡先。交換しようよ。」

「えっ?いいの?」

「うん。」


(えっ?まじ!?いつか聞こうとしてたけどまさか千夏ちゃんから来るとは思わなかった!!)


 内心だけテンションがバカ上がりしている悠はスマホを取り出し、連絡先を交換する。


「うん。それじゃまたね。」


 そう言い今度こそ食堂に向かう。


(やったーーー!!!めっちゃ嬉しいんだが!?てかお母さん以外で初めて女性の連絡先ゲットしたぞ!しかも初めてが理想の女子高生と呼ばれてる千夏ちゃんに!)


 悠はスマホの画面を見て興奮しながら食堂に向かい、秀馬が変な物を見てるような目で悠を見つめていた。

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