第8話 奏乃夜vsマワルンジャーブラック
ヒーローが参上したのを確認して、皆は窓から飛び降りていた。
僕は高い所が苦手だ。五点着地については習ったんだけど、やっぱり高い所とは、どうしても仲良くなれない。第一成功したとして、紙袋が破れたり外れたりしたら嫌だから、僕は廊下をトコトコと走ることにした。
◇◇◇◇
外に出ると、彼等はもう既に戦っていた。押され目な花褸紗を見て、サポートに行こうと校庭の真ん中に飛び出したら、目の前にドリルらしき物が右から飛んできた。あと数歩進んでいたら直撃だったかな。ドリルは目の前の地面に落下し、砂埃を上げ、どういうわけか僕の足を掬った。状況は見えなかったが、きっとドリルが地面に当たり、その回転量が持ち手側に移った。と、そんなところかな。
「あぁ、惜しいっすねー。あとちょっとでミッションクリアなのになぁ……」
右からスタスタと歩いてくる黒い仮面を被った男。僕は姿勢を直し、戦う構えをとる。
僕の足を掬ったドリルは、先端を軸にグルグルと回り、あらぬ方向に向かうかと思いきや、黒仮面の所に戻っていった。
「いやぁ、戦う相手が賢かったら、この原理を説明するんだけどなぁ。いや、説明は負けフラグだ。ってレッドが言ってたっけ」
だははと黒仮面は笑い、じわじわと距離を詰めてくる。僕が後ろに下がる一歩と黒仮面の一歩の違いは当然大きく、すぐに間合いが崩れる。そして気がついたら、彼のドリルが振れば当たるという位置にまで近付いていた。もちろん、僕の手足ではここから攻撃は当たらない。
「そちらも仮面か。どうも仮面を被られると、その顔がどうしても気になるのが人間界の不思議な欲というやつなんだよなぁ。だけど、近距離で爆撃とかされたらたまんないからなぁ。惜しいがここで殺すとする……え? ふっ、大丈夫っすよ、相手はガキ一人なんで」
黒仮面が突然耳に手を当てて、鼻で笑う。そのあとすぐに、黒仮面が高速回転するドリルの先端を、僕の頭にめがけて上に構えた。僕はポッケから“三角形の紙”を取り出し、僕の耳の近くに持ってくる。
『パンッ!』
校庭の真ん中から大きな音が轟いているだろう。それは僕が原因だ。だが、その音は僕には聞こえてはいない。代わりに目の前にいる黒仮面が耳を強く塞いでいる。僕に向けていたドリルは黒仮面の頭の上に移動した。
「るっせぇ! んだぁ今のぉ! おいっ! クソチビ仮面クソガキぃ!」
戦っていれば、相手のことが見なくても分かることがある。その中でも一番わかりやすいものは『怒り』だ。その怒りの感情を露わにした瞬間、僕の勝利は確定する。
「俺はノーダメージの完全勝利が好きなん……だ?」
怒りを表した黒仮面は、反撃のためにドリルを振り上げたが、振り上げた格好のまま動かなくなった。この今にも動き出しそうな迫力ある構えから、さながらゴブリンのように見えて可愛く思えた。
「ぐ……がぁ」
「惜しかったね! 怒ってなかったら負けてたかも!」
そうセリフをいい、僕は華麗に去っていく。
振り返ると、そこには大きな赤いバラが咲いていた。いつしかブラックになるその花は小さな声で叫んでいた。
リマキの威加瀬 神城 希弥 @kohasame
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