第6話 威加瀬vsマワルンジャーイエロー・後編
空からやってきたコマを見て、右に体の中心を動かす。幸い頭には当たらなかったが、左肩から脇や腰に傷が入る。大声で悲鳴が出る程ではなかったが、痛みはとてつもなかった。紙で手を切った痛みが体中でずっとしている感じだ。
左手はもう力が入らないためか、肩が上がらず使い物にならない。左の腹も変に痛い。
仮面をしているから分からないが、恐らくイエローは笑っているだろう。
どうする!? どうする!? このまま戦うと確実に負ける。どうにか守り続けて加勢を待つか? いや、俺は新入りであり、まだ信頼を勝ち取れていない。やはり、ここを崩すしか……。
鼓動が早くなっているのが分かる。最悪の場合の事しか頭にない。もっと最善の手があるはずなのに、思い付かない。
考えに詰まっていると、背中を何かが優しく触れた。それが触れてから体に異変を感じる。怪我した所が緑色に眩しく光り、傷が癒えていくのが分かる。
振り返ったが誰もいない。だが、推理はできる。
イエローは目まで上げていた手を下げ、コマを1つポケットにしまう。
「まぁ一個で充分か。楽しく戦いたいからね、まだ立っててね」
あまり戦い方を考えすぎるな。致命傷を与えさえすれば勝てる。向こうは明らかに俺を舐めている。こちらがきちんと思考すればいいのだ。
考えろ、どうすればイエローに思考の隙を与えずに相手を倒す事ができるか。ニンゲンに思考させたらこちらが圧倒的に不利だ。手早く倒すにはやはり武器破壊しかないか。
先程出した包丁は役目なく消えていった。俺の出す武器は数秒で消える。それをイエローは理解しているだろう。時間がかからず武器を破壊できる方法。
…………やっぱり、校庭に出なきゃダメか。
「一気にケリを付けるわよ!」
イエローは俺が考えている事など気にも止めずコマを宙に放る。コマは変な動きはするが、方向を変えるときは必ず紐を張っているのだ。
俺は包丁を出し、コマとの激しい攻防戦が始まった。コマが来る方向に刃を向けて対抗する。対抗しながら前に進む。インファイトに持ち込めたら利はこちらにある。そう考えているからだ。
先程見せた2つ目のコマは、どういうわけか使用しないようだ。
俺が一歩進むと、イエローも一歩ニ歩と下がっていく。その状態が何度も続き、イエローの背中が壁に付くまで追い込んだ。横には逃さまいと包丁を壁に投げた。
「なんでよ…………なんでなのよ! 少し前までは何も出来なかったガキだったくせに!」
イエローが苛立っているのが分かる。それもそのはず、俺だけでなく青劉嫁にも神経を使っていたからだ。青劉嫁の矢は彼女の思う様に曲がる。いつ自分に飛んでくるかと警戒しているだけで一杯だったのだろう。
イエローは、隣に刃物があるなんて事をよそに横に走り出し、校庭へ出た。
途端耳に手を当てて「えっ」と呟く。
俺は、イエローに向かって包丁を、一本は真っ直ぐもう一本は空に向けて投げた。
イエローは手に持っている紐をピンと張り、真っ直ぐ向かって来た包丁にコマを上手く当てて力を逃した。
一息入れるイエローには、上から降ってくる包丁は見えていなかったのだろう。その包丁は俺の狙った所に落ち、イエローの持っているコマの紐を、スパッと切ることが出来た。
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