第4話 現実
気がつくと自室で転がっていた。また繰り返すのかと思ったが、目覚めたのが寝室ではなく自室だったこと、先ほど使っていた万年筆を手に持っていることから、もう終わったんだと悟った。しかし、蓮の心は安堵感より「人を殺した」という罪悪感や不快感でいっぱいだった。 万年筆越しに伝わってきた生々しい感触が手から離れない。初めての体験に困惑したのか、恐怖したのか吐き気を催し、トイレへと駆け込んだ。今にも吐きそうな青ざめた顔になっていた頃、
(お?吐きそう?大丈夫?)
頭の中で自分と同じ声が響いた。その声につられるように勢いよく戻してしまった。
(驚いた?終わったのにまた僕が出てきて驚いた?)
蓮を嗤笑した者は姿は見えないものの、誰であるかは明白だった。
「どこから...」
少し落ち着いた蓮は見えない僕に語りかけるように呟いた。
(頭の中にいるんだよ〜?)
「は?」
状況を理解しきれず、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔を他所に説明を続けた。
(だーかーらー、最初から君の中にいるんだって。)
「あっ、えっ?...は?」
(あー質問は1つずつにしてね。僕だってわからないことが多いんだから。)
言葉が詰まっているのを察し、発言の機会を与えたものの、止まることなく増える謎のせいで言葉は出てこない。しかし、トイレの中での静寂の空気に耐えきれずなんとか言葉を絞り出した。
「...お前、誰...」
返事がない分、より一層空気が冷え切っていくのを感じた。変な質問を後悔し始めた時に、ため息混じりの返答が返ってきた。
(はぁ...いくらテンパってるかってそこ?まぁそこも気になりはするか。いい?僕は君。君は僕なんだ。)
少し毒の吐かれた答えに、さらに困惑している蓮に呆れて補足に入った。
(すご〜く簡単に言っちゃうと二重人格みたいなもんだよ。名前は...そうだな、
「陽斗...さん?二重人格は取り敢えず置いておくとして...さっきまで殺し合ってたよね?」
リビングに向かいながら自称、2つ目の人格に呼びかける。
(そうだよ。僕の2勝1敗。いやー強いねー君。それより、学校はいいの?今日って平日でしょ?)
もしやと思い、首を勢いよく家のデジタル時計へと向けると、そこには「6月25日木曜日6:47」と表示されていた。驚愕のあまり、痛いくらいの高音を響かせてしまった。
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