第3話 2人だけの殺し合い

(さて...どうしたものか)いざ覚悟を決めたといっても、殺し合いの経験はないことはもちろん、喧嘩をしたことすらないため、蓮は頭を抱えた。どうすれば殺されないのか、どうすれば相手を殺せるのか。しばらく考えたが、方法がこれといって思いつかなかったため、武器を探しながら2日目にもう1人の蓮から教えてもらった情報を整理することにした。幸いにも、蓮は記憶力には自信があった。(確か、俺が死ねば今日が何度も続き、殺し合うことしかできない。あとは、この世界は現実じゃ...この続きは、文脈的に現実じゃないって続きそうだな。夢でも現実でもないならなんなんだ。)捜索を続けていると、自室で万年筆が目に映った。(ラッキーアイテムだし、持っとくか。)包丁を持っていくのも考えたが、仕舞う場所もなく、警察を呼ばれては意味がないため、あからさまに危険な物を持っていくのは避けることにした。

 結局、学生服の胸ポケットに万年筆を入れただけで武器の捜索は終わった。


 7時5分。この時間に出れば、またあいつに会えると踏んだ蓮は、死ぬかもしれない恐怖感からか、人を殺す不安感からか、小さくとも確かな不快感を抱え玄関を出た。


 駅に着くと、ホームにはたった一人しか人がいなかった。もう一人の蓮が「待ってたよ」と言わんばかりに右の手を振っている。

「やぁ、昨日はどこまで意識があったかな?まず、僕の言ったこと覚えてる?」

「覚えてる。ここは夢でも現実でもないってところまでは聞いた。」

 蓮は二人の間が2mほどになるまで距離を詰めていた。

「そっか、ならここから何するかは分かるよ...ねっ!!」

 もう一人の蓮が急に距離を詰め、左手に隠し持っていたポケットナイフが蓮の頭部に迫る。なんとか身をよじらせ、ナイフが左頬を掠める。蓮は崩れかけたバランスを利用し、右足を軸に左回転、そのままもう一人の蓮の脇腹を蹴り飛ばした。まともに食らったようで、時刻表まで吹っ飛んでいった。

「お...思ってたよりやるねぇ...」

 蓮も同じことを思っていた。武道の経験どころか、運動することが不得意な蓮ができるはずのない動きをしたのだから。

「お前はなんなんだ。なんで俺みたいな見た目をしてるんだ。」

 蓮の1番の疑念をぶつけた。

「僕に勝てたら教えてあげるよ。」

 ゆっくりと立ち上がり、右手にナイフを構え、じりじりと歩み寄ってくる。まだ間合いに入っていないにも関わらず、右手を大きく振りかぶり、振り下ろした。その右手にはナイフはなく、宙を舞っていた。蓮の胸めがけて投げられたナイフはあらぬ方向、蓮の体の右側に逸れていった。

 しかし、タイミングよく到着した電車に弾かれ、蓮の右肩にナイフが刺さった。

「がっ!!」

 あまりの痛みに膝をついた蓮に、隠し持っていたもう一本のナイフを手に襲いかかる。(もう一本あんのか...)蓮は追撃に移った。蓮めがけて走り出したもう1人の蓮の足を掴み取り、引き上げ、体勢を崩させた。そこからは取っ組み合いになり、駅の防犯カメラにはホームの真ん中で醜く争う服装以外は瓜二つな男子2人の姿があった。

 蓮がもう1人の蓮の後ろに回ると、両足を絡みつかせて動きを封じ、首に腕を回し、胸ポケットにあった万年筆を鳩尾へ向かって勢いよく振り下ろした。万年筆が深々と刺さった後、もがいていたもう一人の蓮の動きがピタリと止まった。

「やった...んだよな...」

 その蓮の問いに答えるように地面に、空間にヒビが入り、ボロボロに崩れ落ちた。

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