第19話 鷹の巣
”鷲の巣”とは貴族や上流市民などが利用する高級なカフェで劇場や宿泊所も併設された高級娯楽施設だ。かつてのオルガだったら建物を見るぐらいしかできなかったが、今日は「公爵夫人」として入店出来た。この施設はドレスコードがあり、入る事すらできなかった。
カフェに入るとオルガは視線が集まるのを感じた。どこかに雲隠れした王女オルガはいつもここでよからぬ遊びをしていたようだ。日記によれば一緒に来るように誘われたアンジェリカのような、不良といえる貴族子女とここに繰り出し色々と遊んだようだ。しかも、若い貴族の男を誘惑しては身体を合わせたこともあったという。
「いらっしゃいませ、今日はどこに案内いたしましょうか?」
鷹の巣の支配人であるベルナール氏が出てきた。この男は来店するお客の情報が頭の中に入っていた。
「そうですね、今日は貴賓喫茶室を使いたいわ。空いているよね」
アンジェリカはそういうとベルナール氏は三階にある個室に案内した。ここは劇場の桟敷席でもあるので舞台がよく見える位置にあった。しかも、お付きの者の控室もあるので、個室には二人きりになってしまった。
オルガは不安であった。正体がばれないかと。一緒に悪さをしてきたということは親友のはずだから。良い事も悪い事も知っているだろうし、オルガの為人は熟知しているはずだから。
その日のアンジェリカは一方的に話をしてきた。貴族階級のうわさ話などだ。オルガはただうなずいたりするしかなかった。時々、聞いたことのある固有名詞などが出てきても、深く知っているわけではなかった。
「ほら、オルガちゃんが誘惑したなんとかの男爵令息って・・・そうそうシュナイダーっていたじゃないの! あいつったらオルガちゃんが真面にノルトハイムで暮らしているって聞いて、地団太を踏んでいたそうよ。だから、社交界で見かけたら相手しない方がいいわよ。なんだって子爵家への婿入りの話が白紙になったのはオルガちゃんのせいだと逆恨みしているみたいだかね」
このシュナイダーって男の名前を日記で読んだことがあった。たしか子爵令嬢から無能すぎるので婚約破棄が出来るようにしてもらいたいと依頼されて、関係を破壊するように仕向けたと。おかげで子爵令嬢は手を汚さなかったが、オルガの悪評はますます高まったということだった。
「気を付けるわ・・・」
オルガは困惑していた。本来の薬売りのオルガは商売に役立つ情報を仕入れるため、わざとおしゃべりが好きなようにしているので、話をするのが好きなのだが、あまりしゃべるとボロが出るので出来ずにいた。すると、アンジェリーナからこんなことを聞かれた。
「ねえ、オルガちゃんは旦那さんの事、どう思っているの?」
それを聞かれオルガは自分の心の中を覗き込んでしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます