第18話 オルガお出かけする(2)

 ブラウンドルフ伯爵夫人アンジェリカはオルガよりも二歳年長だった。彼女は夫人と称していても実態は「女伯爵」といい、未婚の女性でありながら伯爵家の家長であった。制度上の都合で「伯爵夫人」と称していた。彼女の場合は婿を取る必要があるが、奔放な男性関係のためなかなか決まらないといわれていた。


 葬儀はつつがなく進行していき、老婦人を見送った後、参列者は帰途につこうとしていた。オルガも帰ろうとしたときのことだ。さっきのアンジェリカが絡んできた。


 「ちょっといいかしら、ノルドハイム公爵夫人? さっさとおうちに帰るだなんて王女様だったときと違うじゃないのよ」


 オルガは困っていた。栄養状態が良くなり行商のように毎日長距離を歩かなくなって体形がふっくらとしてきたので、どこかに逃走してしまったオルガとうり二つになったが、中身は違っていた。いくら外見が元王女のオルガでも孤児で行商の娘オルガだから。


 「そうです。わたしも旦那様の留守を預からないといけませんですから、結婚前のように色々とご迷惑をおかけしたような事できません」


 オルガは迷いながらいった。失踪したオルガの日記によればアンジェリカと若い男の子と一緒に飲み歩いたりしていたという。同じようにしようとしたら、絶対正体がばれてしまう!


 「いい子ぶって! まあ、たしかにそうねえ。愛しのコンラート様にお情け貰ってから、害されたのね」


 お情け、という言葉にオルガは顔を真っ赤にしてしまった。本当はそれは間違いなのよ! そういいたかったが、いったら破滅しかなかった。


 「ちょっと、ここで言わないでほしいですわ。ブラウンドルフ公爵夫人。恥ずかしいです・・・」


 その言葉を聞いた彼女の表情に複雑なモノが浮かんでいた。これにはオルガはまずい! と思った。すると一緒に来ていた侍女のヒルデが割って入ってきた。


 「申し訳ございません、どうも体調がすぐれないので、立ち話はおやめいただけないでしょうか。どこかお休みできるところでも、お願いできませんか?」


 ヒルデもかなり焦っていた。まずいと、するとこんなことを彼女が言い出した。


 「そうねえ、ここで立ち話するのもなんだね。じゃあ、この後カフェに行きましょう。いつもの”鷲の巣”に。そうそう、悪いようにはしないわよ、オルガちゃん」


 そういってアンジェリカは馬車に乗った。それを見てオルガはヒルデにささやいだ。


 「ねえ、カフェっていっても大丈夫かしら?」


 「そうですねえ、変な噂が立つのも困るけど・・・行かなければ悪役令嬢のオルガのあらぬ噂がでるかもしれないし・・・困りましたわ。まだ社交界に顔を出さないようにしていたというのに、誘われるだなんて。申し訳ございませんオルガ様」


 「断ればよかったけど、あの人って何が目的なのかしらね」


 オルガもヒルデもアンジェリカの対処に困っていた。

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