第九話 水上楼の会見(後編)

 オルガはもう一人のオルガがどこまでも自分と似ていることが気味悪かった。王女オルガと似ているといわれることが嫌だと思っていたのに、一番身近にいた王太子カールがそういうのだがら正しいのだろう。オルガはすぐにでも本人に会って確かめてみたかった。そしてこういいたかった、あんたって最低女だ! と。


 悪役令嬢オルガといえば、数多くの殿方と浮名を流し、興味本位の大衆が様々な噂からの想像と創作というなの虚偽が盛り込まれて、半ば伝説と化していた。後代になっても婚姻前のオルガの虚構を使って様々な小説がかかれたぐらいだ。そんなオルガは王国内の国民から嘲笑の対象だった。


 「そうなんですね。やっぱりオルガとして生きて行かないといけないのですね」


 オルガの気持ちは重たかったが、そう応じる事しか出来なかった。目の前に王太子と「夫」の辺境伯当主を目の前にしては拒絶など出来なかった。外見は豪華なドレスを纏い綺麗に髪型を整えていても中身は薬の行商人の少女オルガなんだから。


 「そうだな、君は伯爵夫人として振る舞わないといけないが、こういったらなんだが、あのオルガだよな。ここだけの話だが、社交界ではオルガの事を嫌っているのは女で、男は邪な好奇心を持っている。あんまり急に変わったら変に思われるだろうが、評価自体はそんなに急に変わらないものだしな。どうしたものか。そこんところはコンラートに任せるが、オルガをどうするのかは」


 王太子カールは腕を組みながら考えていた。取りあえず自分が譲位されて国王に即位するまでは、オルガはいなければならなかった。この国そのものは政情は安定しているとはいえ、いつ急進的な共和主義者による革命が起きてもおかしくなかった。実際、オルガを王家が堕落した象徴などと糾弾する輩も存在した。


 「殿下、それですが取りあえずオルガは病気になったことにしましょう」


 コンラートはなんてことを言うのよ! オルガは驚いて立ち上がってしまった。


 「も、申し訳ございません。お話の最中なのに・・・びっくりしまって」


 オルガはそのときあんまりにもくしゃくしゃした幼い表情をしたので、その場にいた者は笑い出した。


 「わ、悪い! あんまりのも可愛かったもので! そこは良いと思うぞ、オルガはいつも家族に会うときはそんな表情をみせなかったんだが、いいぞ!」


 王太子カールはそういうと、コンラートの意図が分かっていたようでこんなことをいいだした。


 「とりあえず、君には最低限の伯爵夫人としての振舞だけは身につけてもらうってことさ。でも一日や二日で出来る事じゃないから、取りあえずその間は病気ということにして巣ごもりしてもらうわけさ」


 そのあと、一同は今後について夕方まで話し合った。その時からオルガは本当の公爵夫人として生きていく事になった。

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