鰐嫁(わによめ)③


7月22日


 両親は温泉旅行へ。鰐嫁わによめは羽を――じゃなくて、手だの足だの顔だのを好き放題に伸ばし始めた。私の頭がおかしくなったのでなければ、彼女は最早エプロンをまとった直立する鰐である。気分的には相当楽になったようで、どことなくにこやかで伸び伸びしている風だが、ヒトの顔ではないので表情を正確に読み取ることはできない。両腕(前脚?)には例の長手袋。なんだ、そりゃ礼装じゃなくて炊事用だったのか。

 それにしてもよく物を落とす。当然と言えば当然だけど。優しくしたいわけではないが、仕方なくあれこれ手伝ってやっていると、目をウルウルさせて「どうもア……」と言いかけるので制止。兄の部屋にあったあのマンガと同じ【※】なんて言わせてたまるもんか。



【※】出典:諸星大二郎「アリゲーター」(『てん崩れ落つる日』収録)



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