鰐嫁(わによめ)②


7月21日


 引っ越しとはコレすなわち独立であります。本当は出ていきたくないんだけど。兄が結婚を決めた途端に失業という、豚骨トンコツ……もとい、ぶりを発揮してくれやがって一つ屋根の下――から、私が去ることにしたのです。今は物件を絞り込みながら荷造り中で、ああ、あとどれだけこの鰐嫁わによめと顔を突き合わせにゃならんのだろうと溜め息。

 鰐嫁は鬱陶しい。「新婚なんだからもっと楽しそうにしてなさいよ!」って思うんだけど、基本ドンヨリ。掃除しててもメシ食ってても(多分風呂でもトイレでも)何かにつけて死んだ姉ちゃんを思い出すらしく、目を潤ませている。

 母と鰐嫁の買い物中に覗いてみたんだけど、部屋に兄と鰐嫁と故人のスリーショット写真が飾ってあって、傍らに例の変なと一輪挿し。服喪中なら結婚式なんかしなきゃよかったのによ。それでも母は気の毒がって、いろいろ優しい言葉をかけてやっていたのだが、さすがに疲れてきた様子。いかん、いかんよ、このままでは。

「結婚記念日にはちょっと早いけどさぁ、父と温泉でも行ってきたら?」

 暑いときに敢えて温泉。粋だねぇぇ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る