第29話 後編
「……で、見栄を切ったはいいものの。ジャバウォックよ、どうするつもりだ?」
「決まっているだろう。我らの華麗なる連携攻撃であやつを潰す!」
「いや、だからそうじゃなくてもっと具体的な説明を……」
「心配するな、ニワトリ。今の我らは仲間だ。脆弱な存在である人間が我らに打ち勝てたのが仲間の力とやらのおかげなら、人間よりはるかに強い我らにその力があれば勝利は確実! 負けるはずがない!」
言っている事はかなり滅茶苦茶なのだが……。
「そ、その通りだな! レイナ・フィーマンよ、今度こそ覚悟ぉ!」
キングブラックの叫びに対し、レイナは魔弾の射出で応える。
「あなたたちが何をしようと私には勝てない! 創造主の力、見せてあげるわ! ――『紡がれる命』!」
レイナの力が高まっていくのが外からでも感じ取れる。レイナが長杖を一振りすると、その力が杖を伝って溢れ出し、蝶と化して乱舞する。
「させるか!」
ジャバウォックが腕を伸ばしてレイナにつかみかかろうとするが、その攻撃は蝶の作り出す翡翠の防壁によってはじき返された。続いてキングブラックも炎撃を放つが、レイナに届く前に防壁に当たって消滅する。
「どう? こういう事も出来るのよ?」
「くっ、蝶の壁か……。小賢しい真似を」
たった今レイナが生み出した蝶に加え、上空にはすでにたくさんの蝶が舞っている。見ている分には幻想的な光景だが、生憎今のジャバウォック達にはそれを呑気に眺めていられる余裕はない。
あの蝶はレイナの調律の力の一片であり、それに群がられると何らかの方法で力を奪われ無力化されてしまう。ついさっき体験した事だ。そして今度レイナの必殺技を受けてしまえば、もうそれに抵抗する事は不可能である。
「ジャバウォックよ、こういう時こそ協力である! 我らの力を合わせ、何とかしてあの壁を打ち破るのだ!」
「そうだな。いくぞ……!」
次の瞬間、キングブラックの体が持ち上げられた。
「へっ? ちょ、ちょっと待て……‼」
「『ドラゴンスロー』!」
「コケェェェェェェェェェ⁉」
回転を加えてぶん投げられたキングブラックの体が炎雷の翼に巻かれ、小さな太陽となってレイナに突っ込んでいく。
調律の力で作られた防壁も、キングブラックの巨体に回転のエネルギーを加えた一撃を受け止める事は出来ない。蝶の群れを蹴散らし、レイナに迫るキングブラック。だが、壁が崩れる事を察知していたレイナはすでに横方向に逃げており、誰もいない場所に落下したキングブラックはそのまま地面を擦りながら転がっていく。
「よし! よくやった!」
一方ジャバウォックは、防壁が破壊された一瞬を逃さず腕を振るう。一度はバラバラになった蝶たちも、すぐに集まり防壁を展開。だが、キングブラックの炎に巻き込まれた蝶は少なからず存在し、それらが消えた分防壁は薄くなる。
「……はぁっ!」
薄くなった防壁を突き崩し、巨大な爪がレイナを貫く寸前、ジャバウォックの動きが止まった。レイナの杖から噴き出した魔力が糸のようになってジャバウォックの体に絡まり、その力を奪っているのだ。
「またこれか……!」
(何とか間に合ったわね。けどそろそろ勝負を決めないとこっちが持たない……)
レイナの「創造主化」は、その状態を維持するだけで莫大なエネルギーを消費する。分かりやすく言えば「お腹がすきやすくなる」のだ。そしてエネルギーを使い切れば当然元の姿に戻ってしまう。
(ぶっつけ本番にはなるけど、あれを使うべきかしら)
「……に」
「え?」
突如背後から聞こえてきた声にレイナは思わず振り向く。
「なにしてくれてんじゃボケェェェェ!!」
瓦礫をまき散らしながら姿を現したのは、怒り心頭と言った様子のキングブラック。
(あの勢いで地面に叩きつけられたのに、もう回復したの⁉ なんてタフな……。いや、そんな事より……!)
前方にはジャバウォック。そして後方にはキングブラック。
「ニワトリ、挟み撃ちだ!」
キングブラックの体から茨が離れ、それぞれが意思を持つかのように蠢く。
「かかれぇ!」
「しまっ――」
キングブラックの怒号で、茨がレイナの元に殺到し……、否、レイナの横を通り抜けた。
「なっ⁉」
茨はそのままジャバウォックの肢体に絡みつく。
「ふんぬぅ―!」
そのままキングブラックが力一杯体をそらせ茨を引くと、ジャバウォックの巨体がゆっくりとレイナの方に向けて倒れこんできた。
「えっ……、きゃああ⁉」
間一髪。ジャバウォックが倒れたことで舞い上がった土煙をもろに食らいはしたものの、なんとか潰されずにはすんだ。
「コケケー! これぞ必殺! 『コッコ・ドラゴンプレス』! どこぞのネーミングセンスの欠片もない技とは比べ物にならないほど強力であるなコケッケッケ……⁉」
高笑いするキングブラックの体に、音もなく現れたジャバウォックの尻尾が巻き付く。
「たしかにそうだ、素晴らしい技ではないか……! では次は我の番だな!」
尻尾が高く振りあげられ、そのまま一気に落下。ハンマーと化したキングブラックの体が地面に叩きつけられる。
「あぶな……!」
「ちょこまかと逃げよって! だがこの『ドラゴンハンマー』から逃げられると思うな! そらそらそらぁ!」
「もう何なのよー!」
ふざけた技ではあるが、攻撃範囲、威力はヒーローの必殺技と遜色ない。「紡がれる命」の再展開の隙すら与えない重厚な一撃が次々と降り注ぐ。
ただし、この技には一つ重大な欠点があった。それは……。
「フハハハハ逃げろ逃げろ……ぐぅぅ⁉」
尻尾が突如火に包まれ、さらにその内部で電流が駆け巡る。エクスとの戦いで鱗を剥がされていた尻尾に炎の熱と電気がダイレクトに伝わり、たまらずジャバウォックは空中でキングブラックを解放。
「はぁっ、はぁっ、さっきから何をやってるんだバカニワトリ!」
「ぜぇっ、ぜぇっ、こっちのセリフだアホトカゲ! こんなところで仲間割れしてどうする!」
「仲間割れだと? 我が連携攻撃とやらをしているのにお前が邪魔してきているだけだろうが!」
「あれを連携攻撃だと思っていたのか貴様は⁉」
「違うのか……?」
「何を驚いた顔で……! 連携というのはだな、あの……その……あれだ!」
「貴様もよく分かっていないではないか!」
ぎゃーぎゃー言い合う二匹を見てレイナはため息をついた。
「シェインが話をしたがらなかった理由がよくわかったわ……」
「「なんだと⁉」」
「一つ教えてあげる。今のあなたちじゃ、決して連携なんてできない。なぜなら、それをするために最も大切な物があなたちには欠けている」
レイナは杖を地面に突き立て、精神を集中。ゆっくりと目を閉じ――そしてその目が開かれた時、これまで以上の力がその体に満ちる。
「『オーバードライブ』。これで終わりよ」
元々「オーバードライブ」は力を限界まで引き上げる代わりにエネルギー消費も激しくなるスキルであり、純粋な創造主ではないレイナにとっては他の技に比べて使いこなす事が難しいものだった。
しかし終局の戦いの際、フィーマンの想区に駆け付けた三人の創造主の教えを受ける事で完成した、いわば「真・オーバードライブ」は、創造主モードの維持に「創造主レイナ・フィーマン」ではなく、「レイナ」の持つエネルギーを使用する事によって、創造主でいられる時間を長くすることができる。そしてそれを言い換えると、今まで創造主モードの維持に回してきたエネルギーを全て戦闘に使える――創造主の全力を振るえるという事である。
「食らいなさい! 『調律者の奇跡』!」
放たれた魔弾に対しジャバウォックは
しかし、そんなものは、創造主の前では何の障害にもならなかった。
「なっ―――⁉」
業火の中から現れた魔弾はジャバウォック達のすぐそばに着弾。そしてその衝撃で、二匹の巨体が吹き飛ぶ。
「こけぇっ……⁉」
理解が追い付かない。地面に叩きつけられてなお、今起こった事が幻想でないかと疑いたくなる。
レイナを見くびっていたわけではない。しかしこれは……。
「ん……まだ力の制御がうまくいかないわね。まぁいいわ、次は――当てる」
爆心地の向こう、レイナが杖を向ける。
(これが創造主の、レイナの全力だと言うのか⁉ なんて、なんて滅茶苦茶な……!)
ひっくり返ったキングブラックの頬を汗が伝う。
「く、くくく……! やってくれるではないかレイナ・フィーマン! このくらいでなければ面白くないぞ!」
ジャバウォックが吼えるが、それが空元気であることは容易に推察できた。ほとんど全ての力を出し切っているジャバウォック達に対し、レイナはまだ底を見せていなかった。例え傲岸不遜、天上天下唯我独尊を地で行くジャバウォックであろうと、その事実はジャバウォックの心に相当な傷を負わせているはずだ。――キングブラック自身がそうであり、勝負を諦めかけているのだから。
「もう連携など知った事か! 慣れない事をするより
(ダメだ! それではダメなのだ……!)
キングブラックは心の中で叫ぶ。たしかに二匹の「連携」は散々な結果だった。しかし、空白の書の持ち主たちが二匹に勝てたのは、その力があったからこそなのだ。それは間違いない。ではどうすれば彼らのようにできる? いや、それ以前に――。
「本当に、勝てるのか……?」
幾度も調律の巫女一行と戦ってきたジャバウォックとは違い、キングブラックがレイナに相対するのはこれが三度目である。一度目は捕食者として圧倒的な恐怖を刻みこまれ、そして二度目はキングブラックの全力を以てしても敵わず、そして三度目も創造主モードによって力の差を見せつけられる。その経験が、キングブラックの中から、抗うという選択肢を徐々に消していく。
だが、
それでもキングブラックは考え続ける。自分の事を仲間と言ってくれた、自分を信じてくれたジャバウォックがまだ諦めていないのだから……!
(どうすればいい、考えろ。どうすれば奴らのように連携して戦う事が出来る。考えろ考えろ考えろ――‼)
その時、キングブラックの脳裏に幸せだった日々のワンシーンが浮かんできた。
―――あなた、ごはんの用意ができましたよ―――
―――おぉ、すまないな。うむ、おいしそうではないか。それではいただくとしよう―――
―――……何か、心配な事でもあるんですか?―――
―――ん? いや、我の統治をよく思わない輩の噂を聞いてな。そのことを少し考えていた。お前に話すつもりはなかったが……気づかれてしまってはしょうがない―――
―――ふふ。あなたの考えている事は何でもわかります。ずっと一緒にいたんですから―――
刹那、キングブラックは気づく。
(そうか……そうだったのか……!)
キングブラックの見ている前で、ジャバウォックが腕を振り上げる。レイナが杖を構え魔力を集める。真実を知ったキングブラックの目は、その光景に全く新しい意味を見出していた。
躊躇う事は何もない。キングブラックは傷ついた足で跳ぶ。
(間に合え……!)
「レイナァァァァァァァァァァ‼」
ジャバウォックが腕を振り下ろす。それと同時、レイナが魔弾を放つ。
(間に合え……!)
魔弾は一直線に進み、ジャバウォックの腕と激突し――、否、ぶつかる瞬間軌道を変え、ジャバウォックの頭を狙う。
「なっ⁉」
「まずはあなたからよ、ジャバウォック!」
――届く。
「うぉぉぉぉぉぉ! 『コッコ・スパイラル』!」
魔弾がジャバウォックに命中する直前、間に割って入ったキングブラックの体がそれを受け止めた。
「……えっ?」
レイナは驚嘆の声をもらす。
(全力の私の攻撃を防いだ……⁉ それに今のタイミング、まるで私があの場所を狙うのを知っていたかのような……)
「こけぇー……、間に合った、か……」
「お、おい何をしているニワトリ⁉ 死ぬ気か⁉」
ジャバウォックは落下するキングブラックをとっさに受け止める。
「大丈夫だ……。茨の力で多少は軽減できている。ただ……もうこれは使えそうにないな……」
体に巻き付いていた茨は全て黒く焦げ、ちぎれ、体に力なくぶら下がっているだけの状態になっていた。
「それより、気づいたのだ。我らに何が足りなかったのか。それに、白のおかげで気づくことができた……」
ジャバウォックの手の中でキングブラックは語る。
「互いの事を理解し、考え、補い合う気持ち。それが、我らに足りなかったものだ……。それも当然だろう。お前も、我も、ずっと一匹で戦ってきたのだから……。誰かを利用し、あるいは共謀した事はあれど、誰かと共に戦った事はない。だから気づけなかったのだ……」
その事に気付いた瞬間、キングブラックの世界は変わった。ジャバウォックが次にどのように動くか、ジャバウォックの攻撃した時の隙、そして自分が何をすればいいか。そういった事が勝手に頭の中に浮かんできたのだ。キングブラックはその考えに合わせて動き、魔弾を防いだ。
「一方に動きを合わせ、攻撃を防ぎ、障害を取り払う。ばらばらに攻撃するのではなく、一つの攻撃を全員で通す。
「だ、だが、我らにそれが出来るのか?」
「できるとも。たしかに我らがともに過ごした時間は短い。しかし、それでも、ともに過ごしてきた時間の密度は奴らにひけをとるものではない! お前が言った事だろう! 我は作戦を考え、お前が立ちはだかる壁を壊す。一匹ができないことをもう一匹がやる。それを戦いに生かせばいいだけだ!」
「……! そうか、そんな簡単な事が――」
直後、放たれた十数個の魔弾が二匹を襲う。
「おしゃべりを待っている暇はないわ。何をしようが勝つのは私、その事実は変わらない!」
「「―――それはどうだろうな」」
土煙を払い、二匹が姿を現した。その表情に迷いはない。
「「―――‼」」
言葉は必要なかった。軽く
「調律者のきせ……っ⁉」
迫ってくるキングブラックに対し杖を構えた瞬間、寒気に襲われレイナはその場を飛びのく。次の瞬間、一瞬前までレイナがいた場所にジャバウォックの尻尾が突き立てられた。
「リーチが長いってのは厄介ね……! けど関係ないわ、『調律者の奇跡』!」
後ろに跳びながら再び魔弾を放つ。それを止めたのは、ジャバウォックの腕だった。
「ぐぁぁぁぁ‼」
キングブラックを守るように腕で囲い、向かってきた魔弾を直接受ける。黒鱗が吹き飛び、露わになった肉から血がにじむ。想像を絶する激痛に、食いしばった牙にひびがはいる。
「すまない……、だが時間は稼げた!」
キングブラックの後ろから転がり出たのは、大人ほどの大きさのある黒色の卵。当然繁殖するための物ではない。その中身は辺り一帯を丸ごと吹き飛ばす超強力な爆弾である。『産む』のに時間はかかるが、調律の巫女一行の力を取り込んだグレート・コッコ・ダークネスの技の中でもずば抜けた破壊力をもつ必殺の卵。それが
(あれがシェインを……! 絶対に避けないと!)
「よくやったニワトリ! いくぞ!」
ジャバウォックがまだ動く方の手で卵を掴み、そして、真上に投げ上げる。
「えっ……?」
「これでいいのだ。そぉれ起爆‼」
瞬間、ジャバウォック達の頭上で光が煌めき、すさまじい轟音と共に火球が空に生まれた。その衝撃はすさまじく、レイナは思わず顔を手で覆ってしまう。
「今だ! ジャバウォック!」
「あぁ! 切り刻め!」
その瞬間を逃さず、キングブラックを掴みジャバウォックが飛翔。その影から百を超える数の戦輪が飛び出した。
「無駄よ! 蝶で撃ち落として……⁉」
その時レイナは気づく。ジャバウォックが上に卵を放り投げた本当の目的に。
「コケ―コッコ! いくら調律の力で作り出された幻想の存在と言っても、消すことはできるし予想外の事態が発生すれば統制もきかない! 我の読み通りであるな! さぁて、散り散りになった蝶が戻ってくるのが先か戦輪がその身を引き裂くが先か、賭けてみるか⁉」
「くっ……なめないでよね!」
杖に意識を集中させると、
その間、わずか十秒。創造主にとってはこの程度、足止めにすらならない。だがそれでいい。その時間があれば。最高の攻撃を見舞ってやれる。
「ここでいいか?」
「あぁ。重いのは我慢してやる」
ジャバウォックの頭の上にキングブラックが腰を据える。
「調律の巫女よ、しかと見よ! これが我らの――『鶏竜同盟』の一撃だ‼」
ジャバウォックが開口し、その口内で火炎が渦巻く。キングブラックが翼を広げ、炎と雷、二つの力をジャバウォックの中に流し込む。二匹の力が合わさり、膨れ上がり、ジャバウォックから溢れ出す。その様子はまるで小さな地獄を体の内に秘めているかのようだ。
レイナもその様子を黙って見ていたわけではない。再び集まってきた蝶たちを全て杖に集め、防壁を展開する。それはまさしく不落の壁。創造主レイナの全力を投じた、無敵の盾。
「『紡がれる神命』! その程度の攻撃、軽く受け止めてあげるわ! きなさい……!」
準備は整った。もはや口内にとどめておけないほど巨大化したエネルギーを、ジャバウォックはただ感覚に身を任せて解き放つ。
「『
紅と翠の光がぶつかり合う。全てを滅するような荒々しい光と、全てを鎮める神々しい光が競り合い、その衝撃は風となって台地を駆け巡る。
「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」
もはや何もなかった。考えも感情も、何もない。ただ新たな運命を掴むために二匹は叫ぶ。
「―――――――っ⁉」
永遠に続くかと思えた力の拮抗が崩れたのは何が原因だったのだろうか。エネルギーが切れたのか。風に舞う瓦礫が体に当たり、集中力が途切れたのか。それとも、二匹の想いがレイナの想いを上回ったのか――。
調律の壁に一筋の亀裂が入る。それは手ごたえとして二匹にも伝わってきた。
「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」
もうここで力尽きてもいい。もてる全てを出し切り、壁を押す。
そして。
「こんな……、きゃぁぁぁぁぁぁ‼」
壁が崩れる。翡翠の壁に縦横無尽に亀裂が走り、数千もの光の欠片に分かれ、消えていく。紅蓮の光はその合間をぬい、レイナを押し流した。
「これは……やったのか……?」
「その通りだニワトリ! ついに、ついに我らの一撃が通ったのだ!」
吹き飛ばされ、遠くで倒れ伏すレイナを見てジャバウォックが勝利の
「くっ……まだ、終わってない……! こんなところで終われ……」
立ち上がろうとしていたレイナの体が、ふらりと傾いた。
(もう限界なの……⁉ まだ、戦わないといけないのに……! もう少しだけもってよ私の体!)
「オーバードライブ」を最初からレイナが使わなかった理由。それがこれだ。「レイナ」のエネルギーを使うという事は、創造主モードを解除した後に動くためのエネルギーを消費するという事である。全てのエネルギーを使い切った状態から動けるようになるまで何日かかるか。少なくとも、ジャバウォック達はそれを待ってはくれない。
「……っく」
「どうしたニワトリ?」
胸にかすかな痛みを感じ、キングブラックは立ち止まる。レイナへの同情? それだけはない。一族の宿敵であるレイナに怒りを感じこそすれ、同情の気持ちがわくなど決してない。
「まぁいい。疲れたのならそこにいろ。決着は……我の手で付ける」
胸がざわつく。無性にジャバウォックを引き留めたくなる。しかしそれがなぜかは分からない。ジャバウォックが遠ざかるにつれ、ざわめきはどんどん大きくなっていく。
「……調律の巫女」
ジャバウォックがレイナのそばまでたどり着いた。
「わ、たし……は……まだ……!」
「ジャバウォック!」
キングブラックは叫ぶ。「何か」が騒ぐ。
「――――――これが、我の運命の始まりだ」
死ね。最後の一撃が、振り下ろされる。
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