第4話
打倒レイナ・フィーマンを目標に「鶏竜同盟」を結成したキングブラックコッコちゃんと詩竜ジャバウォック。
目標にむけて動き出した二匹の次なる標的は……。
そして次の日。露店が立ち並ぶ道をキングブラックは一人、歩いていた。
「そう言えば、この姿でいる時の呼び名を決めていませんでしたね……。ついうっかり名前を呼んでしまって計画が破綻、なんて事にはなりたくありませんからねぇ」
ちなみに、この想区でキングブラックの事を知っているのはシェインただ一人だ。より正確に言うならレイナもだが、基本ポンコツな彼女はその事をすっかり忘れていた。
キングブラックは、再編の魔女一行を追い詰めた、彼らにとって最大の脅威である自分の事を話していないはずがないと勝手に思っているが、思い出すだけでも疲れてくるのでなるべく人にはキングブラックコッコちゃんの事を話したくないというのが再編の魔女一行の総意であった。
「……ノワール・ルースターというのはどうでしょうか。うん、私らしい、実にセンスのある名前ですね。今度からはコッコの里の民たちにもこの名で呼ぶよう命令しましょう」
ちなみにノワールは黒、ルースターは雄鶏を意味する言葉である。ある意味キングブラックらしいセンスではあるが。
「彼の呼び名も考えてあげないといけないですね……」
そんな事を一人でブツブツと呟きながら歩いていると、前方に買い物袋を下げた男が現れた。
「えーっと、あとは果物屋でリンゴとミカンを十個ずつだか……」
小太りの体に大きな鼻とくるりと丸まった尻尾。今回の標的である「三匹の子豚」の長男、次男、三男……の誰かである。
「すみません。少しよろしいでしょうか?」
「ん? おらに用だか?」
不自然な笑顔を張り付けた怪しさ満点の男に、不審そうな顔をする子豚。
「えぇ。私は遠くの地方から行商目的でこの町を訪れたのですが、町に入る直前に馬車が壊れてしまい……。直せる人はいないかと町を歩き回っていた時に貴方を見かけたので、助けてもらえればと声をかけた次第です」
「まぁ馬車を直す事くらいわけねぇが……。どうしてオラなんだ?」
「この町で豚と言えば、調律の神殿の建設に際し多大なる貢献をしたと言われる三匹の子豚しかいませんから。貴方の活躍は遠く私達の地方まで届いていますよ」
「いやぁー、そんな……。オラだけじゃなくて弟たちの頑張りもあってこその成果だからよ……」
(ふっ、ちょろいですね)
子豚は分かりやすく照れる。警戒もすっかり解けているようだ。
「弟たち、という事は……」
「そう。オラは三匹の子豚の長男、ハンマー・ブゥだ」
ハンマー・ブゥはそう言って胸を張る。一般に豚と言えば蔑称になる事が多いが、三匹の子豚はその事を全く気にしていない。どちらかと言えば豚である事を誇りに思っている。
「それで、その馬車はどこにあるだ?」
上手くおだてたからか、ハンマー・ブゥは馬車を直す事にがぜん乗り気だ。
「門のすぐそばですよ。私の仲間が見張ってくれているはずです」
キングブラックの案内のもと、一人と一匹(二匹?)は歩き出した。
「食材の買い出しはいつも貴方がやっているのですか?」
「うんにゃ。いつも買い出しをしてくれる子が熱を出して寝込んじまってな。今神殿は祝祭の準備で皆てんてこ舞いだもんで、オラが代わりに買い物にきただ」
「でも貴方も色々とお忙しいのでは……?」
「まぁな。自慢じゃねぇが、神殿の中ではオラたち三人が一番多くの仕事をこなしているだ。んだけれども巫女様のためならいくらでも働けるだよ」
(ふーむ、随分とあの女に忠誠を誓っているようですね。あっちは食べ物としてしか見ていないかもしれないというのに)
いっそ忠告してやろうかとも思ったが、それで機嫌を損ねられても困るので、キングブラックは何も言わなかった。
十分程歩いたところで、一人と一匹は街道に続く石造りの門の側に到着する。
「その馬車はどこにあるんだ? ここには何もねぇみてぇだが」
「オカシイデスネー。ドコイッタンデショウネー」
「……まさかオラを騙しただか? もしそうだったら……がっ⁉」
ハンマー・ブゥがキングブラックの方を向いたタイミングで、背後に忍び寄っていたジャバウォックが脳天に一撃を加える。
「きゅう……」
「お見事。じゃあこの要領であと二匹を連れてくるんでよろしくお願いします。これは麻袋にでも詰めて隠しておいてください」
「任せておけ。……なぁ、ちょっと味見しても……」
「駄目です。まだこれにはやってもらう事があるんですから」
キングブラックは踵を返して町に入っていく。
(しかしツイてますね。まさか祝祭の準備中だとは。そんな大変な時期に作業の柱が抜ければ……、ふふ、買い出しやら何やらで調律の巫女一行共が町に来る機会も増えるでしょうし、奴らがバタバタしている内にジャバウォックの力をつける事も出来る。全くいい時に来たものです)
実の所、キングブラックコッコちゃんは決して強くない。
キングブラックコッコちゃんの攻撃方法は羽ばたきによる竜巻起こし、自身の体重を生かしたプレス、どういう原理で作られるのかコッコちゃん自身も理解してない卵爆弾などで、どれも落ち着いて戦えば対処可能な代物ばかりである。
加えて策士というわけでもない。どちらかと言えば思い付きで行動するいい加減な性格だ。
その点で言えば、自身の能力もあったとはいえ、最後の最後まで正体を悟らせなかったカオス三匹の子豚の方が上手だろう。
しかしキングブラックコッコちゃんの真に恐ろしいのは、その無茶苦茶なポテンシャルと圧倒的な強運である。
穴だらけの計画を持ち前の強運とあり得ない力で成功まで無理やり持っていく。それこそがキングブラックコッコちゃんの強さの秘訣であり、対峙した者が頭を抱える理由だった。
ゆえに、この事態もキングブラックにとってはある意味必然なのである。
「おぉ! もしや貴方は調律の神殿の建設に多大なる貢献をしたという子豚さんですか?」
「は、はい……。僕が三匹の子豚の次男、カッター・ブゥですが……」
今度は次男らしい(全く違いが分からないが)。
同じ要領でおだて、門の外まで連れてきたところでジャバウォックが一撃を加えて気絶させる。
「さて……となると最後は三男ですか……」
疲れてきたのか、ややげんなりした表情で町を振り返るキングブラック。
なるべく目立たないよう、キングブラックは町を歩き回ってブゥ兄弟を探していた。聞き込みをすればもっと早く見つけられるのだろうが、三匹の失踪が明るみに出た時、三匹を探して回っていた謎の男は真っ先に疑われる事だろう。
彼らと歩いている時も、不審がられない程度に距離を空け、少しでも人々の記憶に自分が残らないように慎重に行動する事を忘れなかった。
ちなみに何故三匹が都合よく町にいるのかという疑問の答えは「
「こういう時にシャドウヒーローを呼びだせればいいんでしょうけどね……。女神との約束を破るわけにもいきませんから―――」
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