第2話

※実質オリキャラ?


 詩竜ジャバウォックとキングブラックコッコちゃん。強大な力を持つ一頭と一羽はアリスの想区にて運命的な出会いを果たす。ともに「調律の巫女」レイナ・フィーマンに恨みを持つ一頭と一羽は「鶏竜同盟」を結成、打倒レイナを誓うのだったが……。


「それで……、あの女がどこにいるのかは分かるのか?」


「それについては問題ない。我はあやつが住んでいる想区―—『フィーマンの想区』に一度訪れた事がある。我が『スーパーコッコちゃんナビ』の力をもってすればここからフィーマンの想区に向かう事など造作もない」


「貴様……、ふざけた見た目をしているわりに結構使えるな……」


 もちろんこの「スーパーコッコちゃん」シリーズは以前キュベリエを乗っ取ったさいに拝借したものである。


「それよりお前の方こそ大丈夫なのか? 我は想区間を自由に移動できるが、物語の想区の住民(竜?)であるお前は……」


「くくく、心配は無用よ。……仮面の男その1に白髪の女、仮面の男その2に陰鬱な小娘。貴様らも大分好き勝手やってくれたが、今はその事に感謝してやろう。見よ! これが我の混沌の翼だ!」


 ジャバウォックの体が紅蓮に燃え上がり、翼の付け根からは闇のオーラが噴出する。

 闇のオーラをまといさらに巨大になった翼が羽ばたく度、空気が揺れ身を震わす風が巻き起こる。


「二度の混沌を経験し、さらに自身で研鑽を続けた事で、アリスの力を借りずとも我はこの想区を飛び立つことが可能になったのだ! あとぶっちゃけ物語的に我の出番はないから多少いなくなったところでストーリーテラーの怒りを買う事も無いだろうな!」


「おぉ、素晴らしいではないか! ……しかし、それがありながらなぜアリスの想区にとどまっていたのだ?」


「それは……まぁ色々と深い事情が……。しかしこれで憂いは何もなくなった。さぁ行くぞキングブラック!」


 キングブラックを背にのせたジャバウォックは翼を広げて飛び立つ。

 この光景が多くの人間に目撃された事で、アリスの想区に三度大混乱が巻き起こる事になるのだが……それはまた別の話。







 さて、ジャバウォックとキングコッコがアリスの想区を出てから一週間。フィーマンの想区の宿場町に続く街道、その眼下に広がる森の中に二匹は身を潜めていた。


「『スーパーコッコちゃんスキャン』で想区の大体の内情は分かった。そろそろ動き始めてもよかろう」


「そうだな。……あぁ、我が牙を奴らに突き立てるのが待ち遠しい!」


 キングブラックと同じ位の大きさに縮んだジャバウォックがそう応じる。


「しかし驚かせよってからに。なぜあの事をもっと早く言わなかったのだ。おかげで想定の倍近く日数がかかってしまったではないか」


「色々事情があると言っただろう。……そろそろいつものやつの時間だぞ」


「もうそんな時間であったか。えーっと、『瞳に炎をゆらゆらと…現れたるはジャヴァウォック…』」


「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!」


「どうしたジャヴァウォック⁉」


「何度言えば分かるんだ貴様は!! ジャヴァウォックではなくてジャバウォックだと何回も言ってるだろうが!!」


「誤差の範囲内ではないか!」


「大違いだこの間抜け! 危うく消滅するところだったわ!! 今度やったら貴様を一息に飲み込んでやるからな⁉」


「コケ―……」


 そう、ジャバウォックがアリスの想区から出れなかった原因は自身の性質にある。

 「鏡の国のアリス」で、ジャバウォックは詩の中でしか語られない存在であり、誰かによって語られなければ存在する事すらできない。また語り手がいたとしても、ジャバウォックの力は語り手の数と技量に依存するので、他想区ではアリス関連の想区のように猛威を振るうことが出来ないのだ。

 プロメテウスの計画の一つ、「混沌の渡り鳥」ではアリスの想区の登場人物、つまり語り手をその身に取り込む事でその問題をクリアしていたのだが、それが出来なくなった今は共に想区を渡る事の出来る語り手の存在が必要不可欠なのである。

 ゆえに今のジャバウォックは姿を小さくし、力を極限まで抑える事でなんとか消滅を防いでいる。


「とりあえず当面の問題はお前の力をどうやって取り戻すかであるな……。しかしこんなところでウジウジしていても何も変わらん。とりあえず変身魔法をかけるぞ」


「変身だと?」


「あぁ。この姿は目立ちすぎる。このまま行っても、神殿に辿り着く事すらできないであろうからな。ではいくぞ、『スーパーコッコちゃんマジック』!!」


 派手な効果音と共に紙吹雪が舞い散る。もちろん意味はない。


「こんなところであろうか。ホントは『麗しの魔法使い様』の姿を借りたかったのだが、一度奴らには顔を見られているからな。今回はこの姿で我慢しようではないか」


 キングブラックが変身したのは二十代前半の青年である。くせ毛の黒髪を後ろで束ねた青色の目を持つどことなく人を食ったような顔の男だ。キングコッコ時の頭の蒼炎はネックレスになり、手には魔法を使う為の刺青が彫られている。その表情や黒の外套はどことなくロキを思い起こさせた。

 そしてジャバウォックが変身したのは、褐色の肌に紅い瞳、金と黒が入り混じった短髪、黒い光沢を放つガントレットを手にはめ、竜の牙のようなイヤリングをつけた軽装のーー女だった。


「……ふざっけるなぁ! 戻せ! さっさと戻せ!」


「ちょっ……⁉ し、絞まる! 絞まるから離せー!! ……はぁ、はぁ。男二人だと警戒されやすいし、女二人だと変なのに絡まれたりするから男一人女一人がバランスがいいのだ……ゲホゲホ」


「だったら貴様が女になればいいだろうがぁ!」


「変身には結構魔力を使うからしばらくは使えない……だから絞まる! 絞まるって言っておろうがー!」


 そしてひと悶着の末。


「……全部終わったら覚悟しとけ。食われ方くらいは選ばせてやる……!」


「コ、コケ―……」


 なんとか鶏竜同盟崩壊の危機を乗り越えた二匹だった。


「それから……話し方も少し変えましょうか。あなたも自分の呼び方を変えてみてはどうですか?」


「断る」


「ですよねー」


 まぁこの辺が妥協点だろうと、キングブラックは大人しく引き下がる。


「さぁ、準備も出来た事ですし、さっそく行きますか!」


「あぁ、行くぞ!」





        


「さて、とりあえずは宿場町で情報収集ですかね」

 

 森を出た二人は宿場町に続く街道の上を歩いていた。

 フィーマンの想区を分断するように築かれた巨大な壁。人々はその上にある街道を通り、想区内を行き来する。必然、街道の側に出来る町も高所に建てられる事となり、町の端に行けばはるか遠くの景色まで見通すことが出来た。

 そんないくつかある町の中で最も大きく、そして賑わっているのが、今から二人が向かう宿場町である。街道を中心として建てられたこの町は、特殊な技能を持った想区の住人や想区外から来た空白の書の持ち主で連日賑わいを見せている。

 そして宿場町からそう遠くない所に、レイナ・フィーマンの住まう調律の神殿があった。


「すぐに神殿には行かないのか?」


「堂々と正面から挑んだところで返り討ちでしょうね。まずはあの女の周りの者から排除していかないと」


「周りの者……。調律の巫女一行か」


「えぇ、『スーパーコッコちゃんスキャン』によると……障害となりそうなのは、調律の巫女一行のタオ、エイダ、クロヴィス、サード、エクス、シェイン。あと神殿を守護する四人の精鋭、人呼んで『ブレーメンの音楽隊』も侮れませんね」


「ぬぅ……。意外と多いな……」


「それに宿場町の方にも……」


「おい!」


 突如、背後から荒っぽい声が浴びせられた。


(まずい! 今の話を聞かれたか……?)


「えーっと、どなた様でしょうか?」


 キングブラックが最大級の笑顔を作って振り向く。顔のせいでかなり胡散臭い笑みになってはいたが。


 そこにいたのは奇妙ないで立ちをした一人の女だった。

 赤いマフラーを巻いているが、全体的に露出の多い服装に要所要所に鎧をつけただけというチグハグな恰好。白いフードから飛び出た動物の耳の装飾が、気のせいか時々動いているように見える。


「私の名前はアンガーホース。わけあって、強さを求めて日々強者と勝負している。お前たち、なかなかの手練れと見た。良ければ私と勝負してくれないか?」


「……え?」


 最悪の事態にはなっていなさそうだという安心と、それよりもっと面倒な事に巻き込まれたかもしれないという不安で一瞬笑顔のまま固まるキングブラック。


「この辺では見た事の無い顔だが、もしかして外の世界から来たのか?」


「えー……ま、まぁそんなところですね」


「その雰囲気……おそらくかなりの数、修羅場をくぐってきたか相当な鍛錬を積んだに違いない。頼む! 一度私と勝負しろ!」


「(あれ? なんか命令形になってるような……)すみませんねぇ。私達、ちょっと急ぎの用が……」


 相手を怒らせないようにやんわり断ろうとしたキングブラックだったが。


「よかろう。我の力見せつけてくれるわ!」


「あれぇ⁉」


 思いのほか乗り気な竜が一頭いた。


「ちょ、ちょっと待ってくださいね!

 ……何勝手な事言ってるんですか!」


「この体を試すまたとない機会だぞ? 本番で思い通りの動きが出来なかったら困るだろうが」


「いやそれはそうなんですけどね……?」


「それに――」


「それに?」


「『相当な鍛錬を積んだに違いない』と……。意味も無く倒され続けた怒り……、仮面男に良いようにこき使われ挙句罵倒された屈辱……それらを糧として復讐のために努力し続けた日々をあの女は理解してくれた……! だから我も奴の為に何かしてやりたいのだ……!!」


「あなた、意外と繊細だったんですね……。別に泣かなくてもいいじゃないですか……」


 キングブラックは肩をすくめる。


「そういう事なら構いませんよ。どちらにせよ、今の体に慣れるというのには一理ありますしね」


「すまない、同士よ。……フハハ! 話はまとまった! さぁ勝負といこうではないか!」


「やるからには容赦はしない! 全力で行かせてもらうぞ!」


 アンガーホースが長杖を構える。先端に巨大な紅水晶が付けられた黒曜石の杖だ。


「悪魔から得た煉獄の業火! とくと味わえ!」


「あれは両手杖⁉ 回避を……」


「分かっているわ!」


 放たれた火球を紙一重で避けると、ジャバウォックは地面を蹴る。


「これはどうだ!」


 炎がまるで蛇のようにうねり、地を這いながらジャバウォックに襲い掛かる。


「遅い!」


 それも楽々とかわすジャバウォック。


「まるで話にならないな! この一撃で終わらせてやろう!」


「ぐっ……⁉」

 

 思わず後ずさるアンガーホース。


(これは……想像以上ですね。語り手が私一人しかいない状態であの女を圧倒するとは……。調律の巫女打破計画、案外楽勝かもしれませんね……!)


 勝利を確信して一人ほくそ笑むキングブラック。


 そしてジャバウォックは確実にアンガーホースを追い詰めていた。


「衝撃で吹き飛べ!」


 そう言って、ジャバウォックは地面に思いきり拳を叩きつける。そして――。


「……何も起こらない?」


 怪訝な顔のアンガーホースと焦った顔のジャバウォック。


「あー、あれじゃないですか? 人間の姿だからいつもの力が出せないとか」


「……なんだと……⁉ そんな馬鹿な話が……」


「……よく分からないが、今度はこちらの番だ!!」


 アンガーホースが再び杖をふるう。現れたのは先程と同じ、うねる炎の蛇。ただしその数が格段に増えている。


「ぐぉぉぉ⁉」


 次々襲い来る炎の蛇に、たまらず跳んで地面から離れるジャバウォック。

 しかしそれがアンガーホースの狙いだった。


「食らえ! 『嘆きの炎』っ!」


 アンガーホースの杖先に、今までとは比にならない程巨大な火球が生成される。


「あれはマズイ! 避けてくださいっ」

 

 逃げ場のない空中にいるジャバウォックに火球が迫る。


「ふん! この程度の炎、我のブレスでかき消してくれるわ!」


 ジャバウォックは大きく息を吸い、ブレスの準備をする。

 

 しかし。


「ブレスが……でない……⁉」


 直後、紅蓮の炎がジャバウォックを飲み込んだ。


「私の勝ちだ。いい勝負だったよ」


 煙を出しながら地面に落ちてくるジャバウォック。アンガーホースはそれを見て静かに背を向けた。


「大丈夫ですか⁉ くっ、こんな事になるならやはり止めておくべきだった……!」


「……………」


「とりあえず医師に見せなければ……! いや、下手に動かすと危ないのか……?」


「………………やかましいぞ、ニワトリ

 おい、馬女! 勝負続行だ!!」


 うっすらと目を開けたジャバウォックは、どこから出したのかと思う程の大声で、去りかけていたアンガーホースを呼ぶ。


「……私の正体に気付いていたんだな。それに『嘆きの炎』を食らって喋れるとは」


「あぁ、あの火の粉の事か? もう少し火力がなければ温まる事も出来んなぁ」


「ぬかせ。なら次は……骨も残らないほど焼き尽くしてやる!!」


「さらっと物騒なこと言うのやめてもらっていいですか⁉ ……しかし、今のまま戦っても勝てるとは……」


 起き上がったジャバウォックは首をグルグルと回す。


「ようやくこの体の使い方にも慣れてきたところだ。貴様は余計な事をするな、黙って見ていろ」


 言うやいなや、ジャバウォックはアンガーホース目掛けて駆け出す。

 対するアンガーホースは再び炎の蛇を召喚。蛇の群れが一斉に襲い掛かる。

 蛇の群れから逃れようとすれば最大火力の「嘆きの炎」がとんでくる。しかし地を這う蛇の群れに対処しようとすれば、後手に回らざるを得なくなる。アンガーホースの必勝パターンだ。

 だが、


「くどいわぁ!」


 飛び掛かってくる蛇を殴り飛ばしながらジャバウォックは真っすぐ突っ込んでいく。アンガーホースの杖から絶え間なく蛇が召喚されてはいるが、それがジャバウォックの進攻に追いついていない。


「ぐっ……!」


 アンガーホースはたまらず、蛇の召喚を中断しジャバウォックの周囲に火柱を展開。ジャバウォックの視界が塞がれる。

 さらに炎の壁と混ざり合った蛇があらゆる場所からジャバウォックに奇襲をしかけ、その動きを止める。


「なかなかやるじゃないか。だが、これで終わりだ……!」


 アンガーホースは、ジャバウォックの動きが止まった次の瞬間には行動を始めていた。杖先をジャバウォックに向けると、魔力を集中させる。

 使うのはもちろん「嘆きの炎」。杖の先に少しずつ炎が集まっていく。


「強者よ! 私の復讐の礎になれ!」


 完成したのは先程よりはるかに大きな火球。さしものジャバウォックも、これを食らってはひとたまりもないだろう。


「『嘆きの炎』!! 燃え尽きろ!」

 

 そして火球が杖から放たれた瞬間、


「なっ⁉」


 火球はジャバウォックに当たることなく、欄干にあたって爆発する。


(まさか、『嘆きの炎』がくることを予想していたというのですか……⁉ 

 しかもあの一回でチャージ時間をはかり、そのタイミングで跳んだ……。タイミングが早くても遅くても直撃は免れない。それを成功させるとは……。

 やはり強者。調律の巫女、再編の魔女一行と戦いを繰り広げてきただけの事はありますね……)

 

驚愕するキングブラック。すっかり解説役が板についている。

 

「終わりだぁぁぁ!!」


 そして、ジャバウォックの蹴りがアンガーホースを吹き飛ばした。



 


 

 








 

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