結成! 鶏竜同盟!

白木錘角

第1話

※メタ・おふざけ成分多めです。



 ここは、どこかの想区の森の中。そこで一羽の黒い鶏が哭いていた。

「おのれレイナ・フィーマン!! 今度という今度は許さぬぞ!」

 


  ~回想~

「どうしても行ってしまうのね、あなた……」


 クイーンホワイトコッコちゃんが悲しそうに言う。


「行ねばならぬのだ。コッコ一族の長として、それ以前に一羽の雄として、このような恥辱を受けて黙っている事など出来ない。お前をおいて行ってしまう事はすまないと思っている。だが……」


「いいの。最後まで言わないで。もうあの時みたいに馬鹿な事はしません。あなたを信じてるから。……だから、無事に帰ってきてくださいね」

「……すまない。愛しているぞ、我が妻よ」


「私もです」


 こうして二羽は熱い抱擁を交わしたのだった(羽が短すぎて相手の体に羽を回せず、押しくら饅頭のようになっていたが)。

  ~回想終了~



「すまない、クイーンホワイトコッコ……」


 よよよと咽び泣く黒鶏。だがすぐにキリっとした顔になると、


「調律の巫女、レイナ・フィーマン! 我を食料として見るに飽き足らず、かような辱めまで受けさせるとは! いよいよもって許しがたい!! 必ずやコッコ族怒りの鉄槌を食らわせてやろうぞ!!」


 忙しい鶏である。

 一羽で騒いでいる内に感情が高ぶってきたのか、まるで民衆に演説するかのように声を張り上げる黒鶏。


「なぜ、なぜ……!!」


「あの最終決戦の場に我を呼ばなかったのだーー!!!」


 ここで少し解説をはさむと、あの最終決戦とは、世界の変革を目論むカオスと再編の魔女一行による最後の戦いの事を指す。

 終局の世界にてその正体を現したカオスは、アルケテラーと融合を果たす事によって最強最悪の敵、カオスアルケテラーとなった。

 その力で沈黙の霧を百億の無名に変え、今まで何度も困難を退けてきた再編の魔女一行ですら心を折りかけるほどの絶望をもたらしたカオスアルケテラー。

 しかし、創造主としての力を解放したレイナ・フィーマン、そして彼女の呼びかけに応えたヒーロー達によって戦局は徐々に彼らの方に傾いていく……のだったが。


  ~再び回想~

「それでそれで? その後ニワトリさんはどうなったの?」


「ふふん、そんなに続きが気になるか。ならば、我がどうやって、我を食おうとする悪しき魔女を華麗に退治したのか聞かせてやろうではないか!」


「グレーテル、お茶の準備ができたよー! あ、良かったらニワトリさんも一緒にどうですか?」


「我に食事を差し出すとはなかなか殊勝な心掛けではないか。喜んでいただくとしよう」


「じゃあ、クッキー食べたらさっきのお話の続きを聞かせてね?」


「そう焦るな。物語は逃げたりせん。無論、我もだ。食事が終わればちゃんと聞かせてやろうぞ」


「やったー!」


 今黒鶏がいるのは、「灰雪姫の想区」と呼ばれる場所だった。普段はコッコ一族の里で王として揉め事を仲裁したり、各種イベントの運営をしている彼だったが(裁判官も大臣もいないコッコの里ではこういった事は全て王の仕事なのだ)、時折里の外に出てコッコ族が繁栄するにふさわしい地を探しに行く事もある。

 今回黒鶏が訪れたのがこの灰雪姫の想区だったのだが、想区内を探索している途中で行き倒れてしまい、それをヘンゼルとグレーテルに発見され彼らの住む小屋にしばらく世話になる事になり……そして今に至る。


(悪くないな……。熱くもなく寒くもなく、何か我らの脅威となる生き物がいるわけでもない。おまけにここの人間は礼儀というものをわきまえている。我らの一族がこの地に入植した暁には、支配ではなく共存という道を探ってやってもいいだろうな)


 色々と間違った事を思いながら、黒鶏は風の音に耳を傾けつつクッキーを啄む。

 ちなみに、黒鶏がグレーテルに語っていたのは、カオス・ハートの女王とシャドウヒーロー三人衆を使って魔女一行を倒そうとした時の話である。ちょっと、というか大分黒鶏に都合の良い改変が加えられており、あっているのが配役だけという有様になっているが。

 さて、最後のクッキーの欠片を飲み込み、自分の武勇伝の続きを話そうと黒鶏がくちばしを開いた時。

 一陣の風が吹いた。


(ん? 今何か、運命が動いたような……)

 

 黒鶏には世界の運命を視る事が出来るというとんでもない能力が備わっている。

 とはいえ普通に生活していたら世界の運命を気にする事などまずないので、この力を使うことはほとんどなかった。

 しかし、能力を使っていなかったにも関わらず、今の黒鶏には運命が動いた事が何となく感じ取れた。それはつまり、それだけ世界の運命が大きく動いたという事である。それこそ破滅の未来が一転して希望の未来に塗り替えられたかのように。


「ん? どうしたのだ?」


 見ると、ヘンゼルとグレーテルが遠くの方を見てボーっとしている。


「おやつを食べて眠たくなったのか? 全くまだ子供よの……」


「……なんで今まで忘れていたんだ」


ヘンゼルが呟く。


「ごめなさいニワトリさん! 私たち、いかないと……!」


次いでグレーテルが勢いよく立ち上がった。


「ちょ、ちょっと待て!? 急にどうしたというのだ!」


「レヴォルおにいちゃんたちが大変な事になっているって……! それで助けてほしいってきれいなおねぇさんが……!」


「レヴォル? どこかで聞いた名前だな……。いやいや今はそんな事はどうでもいいのだ。それより一旦落ち着け、もう少し我にも分かるように説明せぬか」


「そ、そうですね……。すこし動揺してました……」


 二人は再び席に着く。


「それでだ。まず、なぜ貴様らはさっきボーっとしていたのだ」


「あ、それはぼくから説明します」


 ヘンゼル曰く、以前カオステラーがこの地を蝕んでいた時、再編の魔女一行を名乗る集団がカオステラーを討伐し、平穏をもたらしたらしい。しかしヘンゼルとグレーテルはその事を今の今まで忘れていたというのだ。


「さいへん、とかいうやつのせいか……。しかし奴らもこの地を訪れていたとはな。それで、その事を思い出したのと貴様らが奴らを助けにいかないといけないというのはどう繋がってくるのだ」


「えーっとね。その事を思い出した時に、頭の中におねぇさんの姿が浮かんできたの。それでね、今レヴォルおにいちゃんが大変な状態だから助けてほしいって」


「おねぇさんだと?」


「はい。……あ、そうだ! そのおねぇさん、最初に自分の名前を言っていたんですよ。確か……レイナ! レイナ・フィーマンって言ってました!」


「!! レイナ・フィーマンだと!? あやつ……」


 黒鶏の頭に宿敵の顔がよぎる。


「それじゃぁ……、ぼくたちは行きます。あの人たちに少しでも恩返しができるなら、ぼくはそうしたいから……!」


「あ、あぁ。無理はするな。危ないと思ったらすぐに周りの大人に助けを求めるんだぞ?」


「ありがとう! ニワトリさん!」


 眩い光が二人を包んだ次の瞬間には、二人は黒鶏の目の前からいなくなっていた。


「ふーむ。まさかそのようなことになっていたとは。子供にまで救援を頼むとは、よほど切羽詰まった事態になっているにちがいない。という事は……」


 黒鶏はにやりと笑う。


「当然この我にもお呼びがかかるだろう! なぜなら後にも先にも奴らをあそこまで追い詰めたのは我ただ一羽! 危機的状況を脱するためには我の力が必要不可欠! 今は世界の危機だ、過去の怨恨は一旦忘れてこの我が一肌脱いでやろうではないか!」


 記憶が大分美化されているがそんな事は気にも留めずに、黒鶏はすぐ来るであろう迎えに備えて毛づくろいを始めたのだった……。

  ~回想終了~



「結局、あの兄妹が帰ってきたのは二日後だったか……。無事世界の危機は回避されたそうだな……。めでたいことだ……」


 ……。


「あの二人がいない間、我が代わりをつとめたのだったか……。 子供たちの世話、大変だったな……」


 ……。


「イルザとかいう女に教えてもらって菓子作りもしたな……。我ながらいい出来だったと思うぞ……」


 ……。

 ……。

 ……。


「いや呼べよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! かつての敵が最終決戦で味方として登場するって一番盛り上がる展開であろうがぁ! 自分で言うのもなんだけど我は結構凄いぞ!? 次元干渉とか空間移動とかもできるんだぞ!? どう考えても我を真っ先に呼ぶべきであろうがぁ!」


 少し補足をすると、レイナがおこなった事は「今までにおこなわれた調律・再編を全て無かった事にし、さらに呼びかけに応じた者を終局の世界に移動させる」だ。

 この呼びかけは、想区の住人に対しておこなわれたものであり、どこの想区にも属さない(厳密に言えばコッコちゃんの里に住んでいるが)黒鶏にはそもそも呼びかけが届かなかったのだ。さらに言えば、レイナは黒鶏について詳しく知っていたわけでもないので、創造主達にしたように個別に呼びかけるという事も出来ない。

 しかしそんな事情を知らない黒鶏は、自分だけ呼ばれなかったという怒りと、赤ずきんのお届け物騒動で何となくうやむやになっていたレイナに対する恨みが再燃し、かつてないほど怒っていた。

 

「あの女を生かしておいたのは我が鶏生最大の失敗……! なんとしてもレイナ・フィーマンには目にもの見せてやらねば……!」


(……も憎いのか)


 黒鶏が覚悟を決めたその時、森の奥から声が聞こえた……ような気がした。


「む? 今誰かの声がしたような……」


(貴様もあの女が憎いのか……)


「何者だ! 隠れてないで姿を見せい!」


(くくく……。我に姿を見せろと……?)


「そうだ! 我を誰と心得る! 偉大なるコッコ族の王、キングブラックコッコちゃんであるぞ! 分かったらさっさと我に平伏……」


 瞬間、キングブラックの目の前の景色が吹き飛ぶ……否、漆黒の巨体が木々を蹴散らし森の奥から現れる。


「食らいつく顎に、掴む爪……! ジャブジャブ鳥にもご用心……。我こそは詩竜ジャバウォック!! 敵対にして破壊の竜なり!」


「……コケ―」


 そう、ここは「アリスの想区」のタルジィの森。詩に語られる巨竜ジャバウォックの住処だったのだ。

 キングブラック自身も同族や人間と比べれば巨大ではあるのだが、目の前の竜は文字通りスケールが違った。ジャバウォックがその気になればキングブラックなど一口で飲み込まれてしまうだろう。


「もう一度聞くぞ。貴様もあの女―—『調律の巫女』レイナ・フィーマンが憎いのだな?」


「……あ、あぁ! もちろんだ! あやつを許すことなど決してないだろうな!」


 ジャバウォックの巨体を見ても、言動がへりくだらないのは王のプライドだろうか。


、ということはまさか……」


「そうだ。我もまたあの女、そして再編の魔女一行を憎むものだ」


 ジャバウォックは忌々し気に尻尾を地面に打ち付ける。それだけの動作で地面がわずかに揺れ、あちらこちらで鳥達が飛び立った。


「あの時は結果的に奴らに利する形にはなったが、奴らへの恨みが消えたわけではない……。今まで我が受けた屈辱の数々、どのように晴らしてくれようか……!」


「ちょっと待て、あの時というのはもしかして……?」


「ふん。あの女に導かれてよく分からん場所に飛ばされた時の話に決まっているであろうが。あの気に食わない無貌の混沌を先に片付けてから、奴らを叩きのめす算段だったのだがな。いつの間にかここに戻されそれは叶わなかった」


「くぅー……。こんなのが呼ばれているのに、我が呼ばれていないなどという不条理があってたまるものか……!」


「おい、何か言ったか!!」


「別に何も言ってないわ! ……コケ―」


 捕食者レイナに植え付けられたトラウマのせいで、自分を食うかもしれない相手には強く出れない鶏である。


「奴らめ……。二度も我の野望を阻むだけでなくあのような恥辱を味わわせるとは……!」


「恥辱……か。貴様にも深い事情があるようだな」


「当たり前だ! あれは忘れもしない、雪の降る日の事だった……。突然やってきた女神キュベリエが、我に何と言ったと思う?」


 ジャバウォックはその巨体を震わせる。


「『あのー、本当に申し訳ないんですけどー……。巳年担当としてレヴォルさんたちと戦ってもらってもいいですかねー?』と、あの女神はそう言いおったのだ! その後すぐにやってきた魔女一行どもと戦ったのだが、冬眠明けでは上手く体を動かせずに我は敗北した……。

……誰が蛇だぁ!! 見ろ、この翼を! 強靭な四肢を! 蛇にこんなものがあるか!? あぁ!?」


「それはどちらかと言えば女神キュベリエに問題がある気が……」


「やかましい! いずれにせよ何もせずに大人しく冬眠していた我を問答無用で襲ったのは奴ら! 蛇扱いされた上に理由もなく倒されて、許す事が出来る訳ないであろうが!」


「た、確かにな」


「ともに調律の巫女を憎む我らがここで会ったのも何かの運命なのかもしれん。どうだ、我と手を組む気はないか? コッコ族の王とやら」


「是非もない。貴様と我ならどのような障害でも乗り越えていけるであろう!」


「クックックック……」


「フッフッフッフ……」


「全ては我らの復讐のため……!」


「あと食われかけた我が同胞のため……!」


                        

「「打倒レイナ・フィーマン! 『鶏竜同盟』結成だ!」」

                        











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