一歩ずつ

自己矯正アンドロイドこと、JKちゃんの説明を軽くされた後、鳴は『あとは若い娘同士でー』と言い残し去ってしまった。全く、無責任な。

JKちゃんは、響をじっと見つめてくる。きっと、響から何か話さないと、この状況は打開出来ないだろう。相手はアンドロイドなんだし。

「えっと……自己矯正っていうのは……?」

取り敢えず、一言目は名前について尋ねるのが、会話の定石……のはず。

「最近の女子高生は『一緒にお花摘みいこー』とか『私いちご牛乳大好きー』等と、周りの好感を得ようと自己を矯正し過ぎだ!って開発者がお怒りになりまして。それで、自己矯正する者=女子高生=JKという謎の式により私の名前が誕生しました」

早速、開発者の闇を垣間見てしまった。

つまり、沖縄好きの両親が産まれた子供に「角煮」と名付ける様なものなのだろう。

「そ、そうなんだ。正に、言い得て妙なお名前だね」

対人経験が乏しい響では、差し障りないコメントで場を濁らすのがやっとだ。

「そうですねー。孤独な高校生活を送った開発者の、私怨掛かったネーミングです」

そう言って、JKちゃんはケラケラ笑う。良いのだろうか、生みの親を馬鹿にするような物言いをして。でも、

「そこはちょっと共感出来るかも」

「響さんも、孤独な高校生活をお過ごしで?」

……もう少し、オブラートに包んでほしい。響の心は繊細なのだから。

「そもそも、人付き合いって、そんなに難しいのです?」

「えっ……それは……」

突然の疑問に、やや狼狽えてしまう。

「響さんは、怖がってるだけじゃないんですか?人を傷つけないか心配で。人の好意から顔を背けても、良い事なんかありませんよ」

JKちゃんの諭すような言い草が、悔しくて、悔しくて。

今まで人に気を遣って生きてきた、響という個を否定された気分で。

奥歯が砕けそうになるまで噛みしめた。

「響さんはもう少し、人に合わせる協調性を身に着けた方がいいですよ」

その一言で、中学生時の記憶が掘り起こされる。


『響ちゃん、中学生になってから、つまらなくなったよね』


『周りに合わせて、楽しい?私は楽しくない』


『昔の響ちゃんのままが良かった』


『今の響ちゃんは……嫌いだな』


一番の親友だと自負していた。だけど、響は……嫌われた……。

「かたちが……形がある物は、壊れたら分かる!でも、形がない物は見えないから、壊れてても分からないんだ!大切な物を失った時の気持ち、JKちゃんに分かる?」

ただ、がむしゃらだった。必死に反論する響に、JKちゃんは驚いた表情を浮かべ、顔を背けた。

「……分かりますよ」

JKちゃんはか細い声で、でも確かにそう言った。

「嘘だよ!」

「嘘じゃないです!今、私が響さんの心を傷つけたってこと、分かるんです!」

振り向いたJKちゃんの顔は……涙で、ぐしょぐしょだった。

「……そして、こうすれば良いってことも!」

JKちゃんはそう言って、響の手を掴んで来た。JKちゃんの手からは、仄かな温もりを感じる。

「なに、これ」

「これは、私の響さんへの想い、です!こうやって気持ちは形に出来るんです!」

JKちゃんは一泊開けて、大声で叫んだ。

「私は響さんと、仲良くなりたいんだって!」

それを聞いた途端、響の双眸から留度目なく涙が溢れた。

「ごめんね……言い過ぎた。響も、JKちゃんと仲良くなりたい」

お返しとばかりに、お詫びとばかりに、手を強く握り返した。

「……泣くことないじゃない」

「響さんだって」

「響でいーよ」

そう言いながら、JKちゃんの涙を拭き取ってあげた。

「あれ……この涙臭い」

「機械油ですから」

「……そうなんだ」

こうして再び、響に友達と呼べる存在が出来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

後世には更生しますから! 萩村めくり @hemihemi09

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ