後世には更生しますから!
萩村めくり
足を洗いましょう
土曜日。
「響、話があります。ちょっと来なさい」
この切り出し方から始まる話は、大抵嫌な思い出しかない。
おずおずと足を畳み、こちらを睨む姉、鳴の足元に座る。
この時、つい正座を選んでしまうのは響が小心者だからだろうか。
いや、反省というのは態度と姿勢で示すもの。響は間違っていない。
それはそうと、この鳴という姉は、おっかない生き物だ。
早くに交通事故で両親を亡くした、私達姉妹。
それからというもの、母として、厳しく優しく接してくれた鳴には頭が上がらない。
「それで、話というのは……?」
自分でも、声が上擦っている。ほんと情けない。
「響の、学校での生活が気になっています。お姉ちゃんに詳しく聞かせてください」
あー、考えうる限り最悪の展開だ。どうにかして、はぐらかさないと。
「お姉ちゃん駄目だよ。いくら響に興味津々だからって!」
誠心誠意全力を尽くす。我ながら情に訴える名演技!響なら全米すら泣かせられる!
「学校での赤裸々な響は、ヒ・ミ・ツげふっ!」
クネクネしてたら額を手刀で叩かれた。
「質問を続けますよ。友達は何人いますか?」
途端、目が泳いでしまう。
現実には一人もいないのだ。そう、現実には。
しかし!響にはイマジナリーフレンドがいる!
「えっと……二人、かな」
嘘はついていない。今も脳内では、兎のレンちゃんと雀のツバキちゃんと手を繋いで野原を駆けている。目指すは、色とりどりの花が散りばめられた花畑だ!
「少なくない……?」
「友達は数じゃないんだよお姉ちゃん!レンちゃんとツバキちゃんは、傷ついた響にいつも寄り添ってくれる。大切な友達なの、二人(匹)は!」
「……そうね。お姉ちゃん間違ってたわ……。良い友達を持ったのね、響。大切にするのよ……うぅ」
柄にもなく、姉は泣いていた。
泣きたいのはこっちの方だ。
身から出た錆というのだろうか……こういうの。
しかし、自分自身の虚言で傷ついた心は、レンちゃんとツバキちゃんが癒やしてくれる。
『気にするなウサ!』
『そうだチュン!』
ちなみに、ツバキちゃんは鳥頭だから便乗系が多い。
「コホン。響に良い友達がいるのは分かりました。きっと学校生活も充実しているのでしょうね」
「う、うん!」
お、流れ的に押し切れるのでは?と思ったのも束の間……。
「でもね、流石に二人は少ないと思うの。だから響とお友達になってくれる女の子がもうすぐ来るわ」
「ちょ、ちょっと待ってよお姉ちゃん!私が重度の人見知りを患っているって知ってるでしょ?」
「大丈夫よ。その子、アンドロイドだから」
「へ?」
ドォーン!
重い地鳴りの音が響くと、遅れて床が微かに揺れた。
窓からは、排気ガスが煙立つのが見える。どうやら庭に何かが降ってきたらしい。
続いて、タッタッタッと小気味よいステップが近づいて来るかと思うと、勢いよくドアが開かれる。
そして……
「こんにちは!私は自己矯正アンドロイド。略してJK!」
入ってきたのは、響とよく似た背丈の女の子。しかし、瞬きをしない眼や、化学繊維で出来てる髪などから、彼女がアンドロイドだと事実を、如実に物語っている。
庭に降ってくるな!とか、不法侵入だろ!とか、言いたいことが山程あるが、
「よ、よろしく」
流されやすい響は、引きながらも挨拶をするのだった。
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