第六話 2tトラックの姫

「少年、危険な可能性がある。そこから動くんじゃないぞ」

「ピザムライ様……!はい!膀胱ぼうこうがはちきれてもここにいます!」

「トイレはこまめに行きな」


 悲鳴の元に駆けつけるまでもなく、異常は目に見てとれた。


「どうしてフードコートに2tトラックが……いや待てよ、俺の常識に無いだけで異世界の物流はこれがスタンダードなのか?」

「何なのよアンタ!口を開けばマナーマナーって!」

「そして俺の幻聴じゃなきゃ2tトラックが喋ってないかコレ!?」


 そこにいたのは外装が『生産者の顔面暴力』仕様になっている2tトラックと、スラっとした女性が一人。なお2tトラックに運転手はいない、2t。信じがたいことに。


「ふん。アイドルに品がなければ当然オタクの民度も下がる。マナーがなっていないにも程があります。ねぇ、番操子ばんそうこ姫?」


 あの2tトラックが姫!?何でもアリかよ異世界!


「言葉を慎みなさい拓男!これ以上『生産者の顔面暴力』への暴言は許さないわよ!」

「慎みません。何故ならそんな哀れなオタクにわたくし厄介拓男やっかいたくおがアイドルのマナーというモノを教えて差し上げなくてはならないので!」

「何がマナーよ!第一、『生産者の顔面暴力』はアイドルよ!なのに──」

みにくいにも程があります。アイドルに神炉離かろりぃなど不要。断食こそがアイドルが最も遵守じゅんしゅすべきマナーです!」


 どうやらファンの喧嘩らしい。全く、アイドルの前で喧嘩して。彼女達も困って……ないな。めっちゃフードファイトしてるな。


「とにかく、わたくしはこれよりこのギルドの食料全てを買い上げ、強制的にアイドルを断食させなくてはならないのです!」

「きゃあああ!!!なんてことを……!そんなこと許さないわ!」


 うん、俺も困る。だってまだ食後のソフトクリーム食べてない。それに──


「お姉さん、ちょっといいかな?」

「おや、貴方もマナーの何たるかがわからない厄介オタクですか?」

「いや、通りすがりのピザムライだ。食料買い占めは俺みたいなデブも困るからやめてほしい。それにさ、こんなに大勢の人が集まっているのは彼女アイドル達が沢山食べて笑っているところが好きで、みんな見にきているからだよな。それを妨害して台無しにしようなんて、そっちの方がマナー違反じゃないか?」


 マナーという言葉を用いて物事を語るなら、自分ではなく他人の意識を軸にするべきだ。独善的なマナーの強要なんて誰のためにもなりはしない。


「いいこと言うわねピザムライ!その通りよ、わかったかしら拓男!」

「……全く、本当に『生産者の顔面暴力』のオタクはマナーのイロハもわからない奴ばかりだ。狗茶羅くちゃらのリプにあった通り!」


 狗茶羅くちゃらって!?コイツ、狗茶羅くちゃらの手下か!?


「刮目なさい下劣なる愚民共!これがわたくしわたくしによるわたくしのためのマナー講座マニフェスト!」


 拓男がパチンと指を鳴らすと、その手には禍々まがまがしい刀が出現した。


「過ちを正しなさい、魔剣慈ゑ延ゑ是じぇのべーぜ神炉離かろりぃ!」


 刃文がみるみるうちに深い緑へと変わっていき、周囲の神炉離かろりぃを吸い取っていく!

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