第二話 〜ぷろろぉぐ〜は空腹と共に

「もしもし、あ、ビンゴピザですか?

 ええ、そうです、とりあえずチーズチーズチーズと、ハンバーグスペシャル、ナンナンチキンカリー、すべてLサイズ、生地はカリカリーナでお願いします……はい、電話番号は……」


 こうしてLサイズのピザ3枚、さらに追加でチキンバスケットを注文しソファに寝転がる俺は小麦練男こむぎねりお

 35歳独身貴族。ニートではないので安心していただきたい、会社はブラックだが。


 大きなお腹はふかふかのソファを大きくへこませ、向こう側の景色を遮っている。

 おっとスリーサイズは秘密だ、恥ずかしいだろ?


 久しぶりの休み、トロットロのチーズが乗ったピザが到着するのが待ちきれないぜ……


「あ、コーラがないな……」


 1.5Lコーラを箱買いしておいてあったはずだったけど、昨日の背脂ペガサスmaxモリモリラーメンが意外に重くて、1本飲み干したんだったな、そういえば。


(うぐぐ……っ、せっかくの休み、外に出るなんて……しかしコーラなしでピザを食べるなんて、ありえない……っ!)


 俺はしぶしぶソファーから立ち上がった。


 起きたままの服装、髭もそらず、顔すら洗っていないが、近所のコンビニに行くくらいならいいだろう。知り合いに会うわけでもないし。何より、ピザが冷めてしまうほうがいけない。

 カリカリの生地とチーズのハーモニーを楽しむためには、あのしゅわしゅわは必要不可欠なんだ。


 家の鍵だけ持って外に出ると、日の光が俺をこんがりと焼く。


「ううぅ……世界はデブに厳しい……」


 季節は春、気温で言えばそうでもないのだろうが、人よりも多めの脂肪を着こんでいる俺にとっては、常人の初夏並みの負担だ。

 汗が流れ出てくるが、紳士の俺はハンカチを忘れない。

 公園ではしゃぐ子供を横目に道路を一つわたって、行きつけのユブンイレブンについたのは3分後、そこで1.5Lコーラ2つを購入して外に出た。


 帰り道、眼前には赤信号の灯った道路、今日は大型車の往来が多い、そこに――

 先ほどの公園で遊んでいたであろうレディが道路に飛び出たボールを追って飛び出した。

 2tトラックが女の子に接触する5秒前。


「あ、あぶな―――!」


 俺はとっさに道路に飛び出しレディを突き飛ばした。


 直後に、弾力のあるお腹の奥底に響くような衝撃が、俺の平衡感覚を狂わせる。


 同期にはその脂肪は鎧になるななんて言われていたが、現実は非情だった。


「―――! ―――!」


 誰かが何かを言っているように聞こえるが、意味が全く理解できない。瞼が重くなってきた。今にも落ちてしまいそうだ。


 ピザ……チーズが、固まる前に……


 その思考を最後に、俺の意識は闇に飲まれていった。

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