第八話 大切なのは、完遂する技能と忍耐

 

 残念ながら彼女に惨敗した良正の身は、召喚された王宮の医務室にあった。

 あまりに惨めな負けっぷりに感傷的になりたくもある彼だが、ここらで止めにして普段通りに戻す。


 バカ勇者の教師をするはめになり、良正は意図せぬ形で称号を獲得したので、その装着を試みるのだった。


 ✣


 教師、という職業柄か良正の身の回りのことを行う、ゲームでいうメニューが教師簿となっている。

 彼の脳と連動していて、その脳波か何かでメニューが自動展開するシステムらしい。


 ――それでは……ステータス、展開ィッ!!


 ___________________

 鈴木良正すずきよしまさ


職業ジョブ

 伝説の勇者候補→伝説の勇者教師


【称号】

 なし→新米教師、伝説の勇者側近


 上記二つの称号において、どちらを選択しますか?


 《新米教師◀ ▶伝説の勇者側近》

 ※称号獲得時、対応装備を獲得。装着時には自動服装変化


【装備】

 初期(赤チェックシャツ&黒ジーンズ)→|


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 良正が力強く思念するとほぼ同時に、手元にある教師簿が開き、その上にメニューが展開される。

 そして、目の前には彼の求めていたステータスが表示されていた。

 彼はそれを上から順に読み進めていく。


 称号欄の注意書き、そこには良正にとって有益な一文が記載されていた。


『称号獲得時、対応装備を獲得』の一文である。


 ちょうど、ずっと赤チェック黒ジーンズで生活というのは、さすがに辛い、と思っていたところだった。

 これは今後の異世界生活、いやダイアス生活にとって実に素晴らしい情報であった。


 が、何より称号とかこういう類は実用性が肝心、そう思った良正は称号について詳細な情報を得るため、『HELP!』と思念する。


 瞬間、彼の知りたい情報が直接脳に流れ込んでくる。


 ___________________

【称号】


 装着すると、その者の身分や地位を簡単に示すことが可能。主に何かの達成時に獲得可能。

 例として、新たな能力に覚醒した、あるいは能力を獲得した場合、ステータスが一定値を超えた場合等が挙げられる。

 例外的に、役職に就くことで獲得し、能力等を得る場合も存在する。それらの大概は抽選や一方的な意志の働きといった性質を持つ。

 ※勇者とその側近、勝手に役職に任命・指名された場合等


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 その情報を参考にすると、良正の獲得した二つのうち【伝説の勇者側近】は例外的で、【伝説の勇者】の彼女とまでは言わずとも、似たような強化バフが得られるということだろう。


 なら今、彼が選ぶのは、選ぶべきは……


『右! “伝説の勇者”側近を選択する! さあ、強化バフよ我が手に!!』


 当然、右の一択である。


 ――これで俺は強くなれる。さっきの戦闘だって、強化を除けば俺の方が強かったんだ、俺の方が…俺の方が……俺の方が………


「ウォーン、ウォーン、ウォーン、、、」


 召喚時のように意識の奥底におちいりかけていた良正は、余りに騒々しい異音によって現実へと引き戻された。


 その音は、どうしようもなく耳に障る警報音、サイレンのような音だった。

 が、そんな騒々しい音が響いているにもかかわらず、良正以外は全く反応を見せない。

 終いには、音に苛まれる彼に何か汚いものでも見るような冷酷な眼差しを向ける始末。


 それでも、良正は至って冷静だった。

 この現象の解決を最優先に考え、話が大きくなるのを防ごうとしたからである。

 これはあくまで彼に起きている事象であり、彼以外には無関係、彼女に関して言えば迷惑を掛けてしまう云々以前の話である。


 あいつは途方もないバカで、言ってしまえば“どバカ”、邪魔にしかならない


「なんとしても、自力で解決せねばならない……!」


 そうして、良正は覚悟を決めるのであった。


 初め、辺りに不審物や不審者がないか確認したが見当たらなかった。

 次に、部屋中を走り回って音源をより丁寧に探したが、どこでもこの音は同じ大きさ、同じ質でまたも見当たらず。


 しかし、この二つの確認で情報を得たことで良正には大方の見当がついた。


「確証はないが……あ、やはりな」


 異音の正体は、彼の教師簿だった。


 それなら、もっと早くに気づいてもいいのではないか?


 そう思うかもしれない。

 だが、この教師簿は良正の脳と連動しており、意志を示さない限り簿なのだ。

 確かに、彼は音源を探すとき最初に教師簿を開いたが、その時は単に中を確認するだけとの思考だったため、当然メニューは出てこない。


 今回の音源はそのメニュー、の中のシステム。

 称号の装着を任せていたので、その完了を告げるための音だったらしい。


 まだ、その設定だなんだと弄っていなかったがために起きた小さな事件。

 確認を怠ってしまった自分の不始末に、穴があったら入りたい、とひとり恥じらう良正であった。


 ✣


 その後、落ち着いてからメニューを再度確認すると、ステータスアイコンに赤いマークがあった。


 これが大切ななにかを知らせるものだと直感した良正は、アイコンを目一杯力を込めて押した。

 メニューに指がめり込み、その後ろの実体を持った紙製の教師簿が破けそうになっているのに目もくれず、押し続けた。

 立ち上がるのに必然的にかかる時間すらも許せず、彼は無意味な連打を続けた。


 そして、やっと


 ___________________

 鈴木良正すずきよしまさ


職業ジョブ

 “伝説の勇者”候補→“伝説の勇者”教師


【称号】

 なし→“伝説の勇者”側近


【装備】

 初期(赤チェックシャツ&黒ジーンズ)→純黒のローブ(古龍毛製)、濃紺のワイシャツ(古龍毛製)、濃紺のスラックス(古龍毛製)


性能アビリティ

 魔力 なし


 言の波 25000+0+0→25000+0+5000

 ・通常出力 1500/分 → 3000/分

 ・最大出力 15000/分 → 22500/分


 魔法耐性 なし→Lv.1


 属性耐性

 ・火 なし→Lv.1

 ・水 なし→Lv.1

 ・木 なし→Lv.1

 ・光 なし

 ・闇 なし→Lv.5

 ・天 なし→Lv.5

 ・地 なし→Lv.5


 ※あらゆる魔法は、基本五属性の火水木光闇と二つの上位属性天地に分類される。これ以外の属性の場合、どれかしらの派生である


特殊能力スキル


 自己愛ナルシスト

 いつでもどこでも己を鼓舞し、強化バフをかけ続ける


 強固な決意ディターミネイション

 己の決定、決意は絶対。それに仇なす者には弱化デバフ、自身には絶大な強化バフをかける。決定を完遂出来ないとなると、神にも比肩する力を得、その身が灰と化すまで絶えず抗い続ける


 天才ジーニアス

 言霊の同時使用が最大三つまで可能


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 自分のステータスを見た良正はその内容に唖然とする。


 ステータス見られたのはいいんだが、


 ――これって、“俺TUEEEE”ってやつなんじゃね!?!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る