2話 パンツ一丁の転生者
ツクツクボーシ……ツクツクボーシ……
ツクツクボーシ……! ツクツクボーシ……‼
ツクツクボーシ! ツクツクボーシ‼
ツクツクイイヨー! ツクツクイイヨー‼
ヴァ――――――ッ‼‼‼
「うるせぇっ‼」
ツッコミとともに、俺は跳ね起きる。
「いや確かにそんな鳴き声だけど! 最初はゆっくり鳴いてたのがだんだんはやくなっていって、最後には謎の奇声になる感じだけど! うるせぇっ!」
ひとしきり叫び終えた俺は、改めて周囲を見渡す。
そこは、うっそうと草木が生い茂る森の中だった。
気温はそれほど高くはない。ただ、やけに湿った空気が森の中に充満していた。
「ここは……『アヌーの森』か?」
記憶の中にあるゲーム世界の森と周囲の光景に奇妙な一致を覚えて、俺はつぶやく。
――そうだ。ここは異世界。俺が遊んでいたゲーム「Many Money Online(メニーマネーオンライン)」の元となった場所なのだ。
さっき女神と会話していたときに、それは理解したはずだった。だが、改めてその中に飛び込んでみると、やはり驚きを隠せない。
背丈より高い草と、見上げるほどの巨大樹。それはまさに、「Many Money Online(メニーマネーオンライン)」内の初級ダンジョン「アヌーの森」と同じであった。
「とはいえ、アヌーの森にツクツクボウシはいねぇよな……。やっぱここはゲームとは違う世界みたいだ」
まさかセミの存在によって両者の違いを痛感することになるとは思わなかった。
まぁでも、考えていても仕方がない。
俺は立ち上がると、体についた土を払う。もちろん俺の格好はパンツ一丁なので、肌にまとわりついた土を手で落とすかたちになる。
と、そこで視界の端になにやら文字のようなものが表示されていることに気がついた。
視線を動かしてその文字を読む。
『プレイヤー名:パンイチ
種族:
所持金:1200P(プリュン)
特殊スキル:「裸の王様」
基本スキル:「すねかじり」「
所持アイテム:
「いや、なんかさんざんな言われようだな……」
視界の端に名前や所持スキルが表示される仕様は、「Many Money Online(メニーマネーオンライン)」と同じである。だから特別に驚きはしない。
だが、その内容を読むと、さすがに悲しくなってきた。
まず、名前。俺はゲーム内で、本名である
誰かに自分の名前を名乗らなきゃいけない場合はどうするんだ……と考えるが、まぁそのときは偽名を使えばいいかと結論づける。
――次、種族。
「Many Money Online(メニーマネーオンライン)」内では、プレイヤーが自身の種族を選択することができる。「人間族」「魔族」「竜人族」といった具合にだ。
うん、もちろんだが「裸族」なんてものは存在しない。そんなものは、あってはならない。
「Many Money Online(メニーマネーオンライン)」は全年齢向けのゲームだ。そんな種族があれば、たちまち十八禁ゲームになってしまうだろう。みんなが楽しくゲームをプレイするには、超えちゃいけないラインというものがあるのだ。
そんな暗黙ですらないルールを初っ端から破るのが、どうやらこの世界のやり方らしい。あるいは俺をここに連れてきたあの女神の趣味か。
「まぁでも、初期装備を売ることを選んだのは俺だからな……」
そこについては、俺にも非はあった。だから目をつぶろう。
次、所持金。
P(プリュン)というのは、「Many Money Online(メニーマネーオンライン)」内の通貨と同じだった。だいたい1プリュンが1円。一万円を課金すれば一万プリュンが手に入ったし、一万プリュンを消費すれば現実の口座に一万円が送金される。
――そう。「Many Money Online(メニーマネーオンライン)」とは、ゲーム内で稼いだお金をリアルマネーに換金することが可能なゲームだったのだ。げんに、プレイヤーの中から億万長者が出たという話が、ネット上にごろごろと転がっていた。
だからこそゲームを優位に進めるための課金は必要不可欠だったし、俺も課金するカネほしさに腎臓を売った(結局売れなかったけど)。リスクに見合うリターンがあると踏んだからこそ、俺は臓器を売ることにしたのである(もう一度言う、売ることはできなかったけれど)。
「所持金、1200
それが初期装備の値段だったということか。
もしも俺の口座にあったなけなしの金も1200Pの中に含まれていたとすると、初期装備そのものの値段はもっと安いことになるのだが……それはまぁ、考えていても仕方がない。
トイチの借金を背負わされるよりはマシだ。
「で、次がスキル……『裸の王様』か。あの女神ヤロウ、結局なにも説明してこなかったな。なんだよこのスキル――」
と、俺が愚痴った、
次の瞬間。
パパパン! と高い音が響いて、俺の背中に鋭い痛みが走る。
「な……なんだ⁉」
驚き、痛みが走った背中の部分をさする。すると、そこには数本もの「針のようなもの」が刺さっていた。
痛みを我慢してそれを引き抜く。
「こ……これは、つまようじ……⁉」
小指ほどの長さの、木製の針。それはまさに、割りばしの袋におまけで入っているような「つまようじ」だった。
なぜ、つまようじが背中に刺さったんだ⁉
混乱する俺の頭上で、なにかが動く気配。
弾かれたようにして、俺はそちらを見る。
頭上、巨大樹の枝の上から俺を見下ろしていたのは――
黒い衣服に身を包んだ、ひとりの少女だった。
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