「兄貴、いいかな」

僕は実家の部屋が、

家を出た時のままになっていたことに驚いた。

懐かしい本とCDを眺めながら時が過ぎていく。

部屋に入ってきた弟は、慣れた感じでベッドの上に座る。

あの頃は弟が僕の部屋に入ることなんて、

ほとんどなかったのに。

僕は机に座ったまま弟の方を向いた。

「真理の実家がさ、家屋調査士をやってるんだ」

「人手が足りないらしくて」

弟は少しうつむきながら話す。

「どうかなあ」

「そうか、真理さんの実家は家屋調査士か」

「わかるの」

「向こうでは不動産関係の会社にいたから」

弟が小さく笑う。

「そうか、俺兄貴のこと何も知らなくて」

「僕だって同じだよ」

「それで、大丈夫なの」

「まあ、向こうでは散々嫌な思いしたからね」

「でも、僕も少し踏ん張らないと」

「そうか」

弟が僕を見て微笑む。

「ところで、詩織ちゃんとは会ってるの」

「そうだね、時々誘ってくれるから」

「兄貴の方からは誘わないの」

「誘ってみなよ。もうすぐ誘えなくなるから」

「えっ、どうして」

そう言いながら、そんな予感のしていた自分に気づく。

「詩織ちゃん、東京でちょっとあって、こっちに戻ってきたんだけど」

「兄貴と会ってたら、もう一度東京で頑張ろうって気になったんだって」

弟はそう言って部屋を出て行った。

僕は窓の外のオレンジの空を見る。

ねえ、僕は頑張れるのだろうか。

本当に。

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オレンジ 阿紋 @amon-1968

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