ダラダラとフラフラと見慣れた街を歩いている。

あんなに時間がたっているのに、

この街はあの頃と全然変わっていない。

行きつけだった喫茶店に入ってみる。

マスターは僕のことは覚えていなかった。

だいぶ感じが変わってしまったのかな。

当然、店の子も知らない子だ。

バイトも高校生かな。

そう言えば守屋とよくここに来て、

バイトの女の子をからかっていた。

女子大生のメグさん。

今頃どうしてるだろう。

短いスカートが眩しかった。

「眩しいのは、スカートじゃなくてその下だろう」

守屋が僕に言った。

下というのは、どっちの意味だったのか。

「そりゃ、決まってるだろう」

守屋の声が聞こえた気がした。

「もちろん、両方だよな」

思わず、声に出てしまう。

僕は、あわててまわりを見る。

見られてはいなかったようだ。

コーヒーを飲み干して、店を出た。

僕はまだ、実家に戻る決心がついていない。

そしてまたフラフラと、通りを歩き始めた。

実家とは逆の方向に。

「五十嵐君」

後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。

また、守屋か。いや違う、あいつは九州だ。

「五十嵐君」

それに、あいつは「君」なんてつけない。

「五十嵐君」

よく聞くと、女の声だ。聞き覚えがあるような。

振り返ると、女の子が微笑んで僕を見てる。

「覚えてない」

覚えてなかった。

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