オレンジ
阿紋
1
そういう時間だったのか、
たいして混んでもいない電車を下りて、
久しぶりに自分の生まれ育った町にある、
駅のホームに立った。
ここに立つのは、進学のため東京に向かう電車に乗ったとき以来だ。
そう、絶対戻ってこないと思っていた場所。
親の期待を裏切ってしまった僕は、
最低限の仕送りとバイトで、
学生生活をどうにか乗り切った。
奨学金に手を出さなかったのは、
今となっては正解だった。
自慢できることといえば、
借金がないことぐらい。
「どうにかなるって。一緒に頑張ろう」
ミキはそう言って、僕を抱きしめてくれた。
仕事を探しながら、バイトを続けて半年。
今ではそのミキとも連絡が取れなくなっている。
わかってるさ。
努力もせず、グダグダと生活している男に
愛想が尽きてしまったんだろう。
でもさ、僕もわかってしまったんだよ。
努力して会社に潜り込んだところで、
僕は、こんなところでは生きていけないってことが。
それでも思い切って、
ミキに会おうと彼女の部屋に向かったんだ。
もしかしたら、変われるかもしれないって。
その途中で、会社の後輩だった木暮とすれ違った。
挨拶をしようとしたら、あからさまに無視されてしまう。
僕の存在なんて、すっかり消えてしまったように。
ミキは不在だった。
居留守だったのかもしれない。
僕は上野に向かう電車の中で、小暮を見かけた。
誰かと楽しそうに話している。
そう、あいつはもう誰かでしかない。
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