第9話 キョウフ
「俺の名前は、トキ」
そういったのは私のことを殺そうとしていたはずの人だった。
けど、ほんとうは殺そうなんて思ってないと思うんだ。
助けられてから2週間が経って、いろいろ教えて貰った。
まずここは、犬の保護施設で私たちのように飼育放棄されて虐待された犬たちを救う所らしい。
そして、新しい家族と出会うための場所。
と言っても、ここに来た人は本当に少なく、今までで2人来て、そこから何も起こっていない。
「クルー起きろー犬に飯やってきてくれよ」
目が覚めてはいたものの、物思いに耽っていた為起き上がるのがつい遅くなってしまった。
「うん、わかった」
そう言うと、近くにあった服を適当に取って、着替える。
「お!おいおい!ちょっとは恥ずかしみをもて!!」
そう言うと、焦って出ていってしまった。
急に静かになってしまう。
真っ白で服の入っている箱と、ベットと、青いペラペラとした布が貼ってある窓しかないこの部屋。
そう、最初のあの部屋だ。
着替え終わると、そのまま外に出て犬舎に行く。
「ごめんごめん、今日は遅くなったね」
そう言って、個別に餌の入ったトレーを渡すと、ガツガツと食べる。
「今日も異常なしっと……」
少しみんなの観察をして、怪我や、具合が悪そうだったら連れて行って診察する。
その診察はトキがやることになってる。
「クル朝飯できたぞー」
そう言って玄関から手を振っていた。
『いただきます』
2人で手を合わせて食べる。
毎日美味しいご飯が食べられる……
こんなこと少し前まではありえない事のはずだった。
すると、1本の電話がなった。
「はい、トキ保護センター」
するとトキは神妙な面持ちで向こうの誰かと喋っていた。
何の話かは分からないが、かなり真剣な声から大変な事が起こったんだと思う。
「分かりました。今向かいます」
そう言うと、電話をおき、こちらを向いた。
「ごめん、今から出かけないといけないから犬の散歩は任せた」
そう言って、踵を返し外に行こうとドアに手をかけた。
なんだろうこの気持ちは。
凄くついて行きたいと思った。
「ねぇ、行きたい」
そう言うと、驚いた様子でこっちを見つめ返す。
少し唸ったあと、いいぞ、と言って貰えた。
「ここは……」
何だこの異様な臭気。まるでハコの中のようだ。
いや、もっと酷い。
一軒家の窓からちらりちらりと何かがこちらを見ている。
まさか……ここは……
「クルこわいか?」
肩に手をおき尋ねる。
「いや、問題ない」
そう言うと、前に進む。
1本敷地に入ると、いっせいに体の中まですごく響く声が聞こえた。
思わず後ずさりをする。
これは、これは犬だ。
犬がここにいる。
助けてと、叫んでいる。
そう言うと、玄関から太った女がでてきた。
「あら?あなたがトキさん?」
そう言うとニンマリとはにかみ、こちらに近づいてきた。
「ごめんなさいねぇ……犬がうるさくってもうね面倒みれないから貰ってちょうだい」
悪気が一切声から聞こえなかった。
まるでいらないから、早く持っていけ、そう言わんばかりの顔をしてた。
必死に叫んで、助けを呼んでいる。
ここから出してと、言っているんだ。
分かる。分かるからこそ、この女が憎い。
「全く……煩いわねぇ」
そして小声で、こういった。
「死ねばいいのに」
ふざけんなふざけんなふざけんな
そう思ったら私は女につかみかかっていた。
「やめて!やめなさいよ!!!」
手を振り回しながら私を落とそうとする。
「お前に!言われたくないだろ!!お前が死ねばいいんだ!!!死ね!!!」
そう言って顔を噛み付こうとした。
「クル」
その一言で、制された。
これまでで1番怒ってて、憎んでいる声だった。
恐れすら感じる。
「クル離せ」
短くそういうと、口を閉じ、手を離して後ろに下がる。
「ここに連れてきたのは間違ったな」
そう言いながら、冷ややかな目を向けられ、思わず下唇を噛む。
「もう!なによあんた達!」
そう言って戻ってしまった。
「クル、今何をしているかわかったか?」
「間違ってはいない!あいつは死ぬべきだ!」
悔しくて、なんで怒られているのか理解が出来なくて、辛い。
そしてトキの表情も険しい。
「確かに!あの態度は気に食わなかった。あんなとこに閉じ込めてヘラヘラしてそれは俺だって同じ気持ちだ!!」
「……っ!なら!なんでとめた!あのままにしておけば殺せたのに!」
そう言うと、トキは涙を流した。
「違う……お前はもう人間なんだ……!!」
「人間……」
「クルはクル、犬だったのはアヤの時、クルは人間なんだ!」
「違う!私は!私は!!」
ずっと犬になりたかった。
けど、それでも人間としての体の作りには抗えなくってみんなに、ライたちに迷惑かけて、置いてかれた。
いつも隣にいたはずなのに、気づいたらトキの前にいた。
「お前はクルなんだ!!」
「アヤはあの中で死んだ!!」
「お前はもう人間としてずっと俺の隣で笑っててくれ……!」
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