第6話 ウラギリ

「あつい……」

体が焼かれているくらいに熱くて、頭がガンガンする……

なんだこれ……

森の1つぽつんと寂しげにたちながらも、今なお生きている大きな木の根元に腰掛けながら、夜が更けるのを待っていた。

今日は満月だと言うのに、曇り空で時より月が雲に隠されてしまっている。

地べたに座る以外に工夫して動物の毛皮を敷いてみんなで寝る。

夏の夜と言っても気温が下がり寒いのでみんなで固まりながら、

「さむ……」

小声でポツリと呟く。

さっきまで熱かったのに、今はすごく寒くて頭がおかしくなりそうだ。

暑かったり、寒かったり、頭が痛かったり、痛くなかったり。

色んなことが起きるのは私が今なお、人間だからだろうか。

どうやったらライみたいにかっこよくなれるのか、どうやったらみんなみたいに強くて狩りができるようになるのか、それはいつなのか、何をすればいいのか分からない。

「はぁ……」

考えても埒が明かないので、川をまで歩こうと思い腰をあげた。

「あ、ごめんねライ」

私が立って2歩ほど歩くと、ライが立ち上がっていた。

そのまま川に向かうと、ライも一緒についてきた。


水の流れる音がする、

こんなに闇が深くてもそこに川がある。

「ライ、私ねここにていいのかなって毎日思ってるんだよね」

水の音がいっそうに響きながら、梟の声がする。

この場所、この空間これが好きだ。

ずっと続いて欲しい。

ずっと一緒にいたい。

こんなこと願っちゃいけないのかな、そんなことを思っていると、ライが寄って来た。

わっしゃわっしゃと撫でてあげると、目を細めて1度だけ顔を舐めた。


「やーっと見つけたよ」

背後から低くて少しだけ怒っているような声がした。

暗闇の中誰も居ないはず、ましてはライも気づいていなかった。

どういうことだ?

誰だこいつは

「よーライお疲れさん、案内ご苦労だったな。こいつは俺が引きとる」


「だれだ」

雲が月を隠す。

相手の大きさ、人数、持っているもの。

今わかるのは何も無く、強いていえば、相手は少しの怒りの感情を持っていること。

だが、しかし、ライのことを知っており意味が分からない。

あまりの情報の多さに混乱する。


ズキ……ズキズキ……


ああっ……また始まってしまった。

これは最悪の展開だ。

心臓の拍動と共にズキリズキリと頭が痛む。

この状態の中今私にできること……

考えろ!

考えるんだ!!

「ほぉ?俺と戦うってか?」

「当たり前だ、どこのどいつか知らないが、何故ライのことを知っている」

これだけは聞きたい。

高まる心拍に共鳴してどんどん痛くなる。

荒い息を整えながらただ真っ直ぐ相手を見つめる。

この前河原で拾ったツヤツヤした硬い石を尖らせた物を構えながら。

「……」

「答えろ」

いつの間にか梟の声は聞こえなくなった。きっと私たちの声に驚いて飛んでしまったんだろう。


「それは、ライが俺の友達だからだよ」

その瞬間月の光が相手を照らした。

黒髪の美しい男だった。そして、そいつはわらっていた。

「アヤ、俺についてこい」

「……!?」

『アヤ』久しぶりにその名前を呼ばれた。

すごく長い時を感じた。

「なんで、なんでその名前を知っている!」

サッと駆け出し、喉元に手に持つ物を切りつけようとする。

だがしかし、それは叶わずに盛大に転んでしまう。

体が……動かない……

体には、右手にはすごく力が入っているのに立てない。

この前では殺される。

嫌だ嫌だ嫌だ。

死にたくない


そこではっと思い出す。

アイツらも、あの時そう思ったのか。

これが死への恐怖。

この恐怖のなかあいつらは死んで行った。

「ライ……にげ……て……」

動かない体を震えさせながらライに言う。

この声が届かなくてもいいから、なんでもいいから、どうせ殺されるのなら、最後までかっこよくいたかった。

「だから、ライは友達だから」

「へ、え……」

顔を上げると、ライはその男の隣でこちらを見ていた。

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