第4話 ギャクシュウ

体の底から凍えるような寒さだ。

犬どうしでくっつきながら、私「アヤ」はライやリリと一緒にくっついて眠りにつこうとしていた。

「ざっ…ザクっ……ざっ」

一歩づつの慎重に小石をふむ音が微かに聞こえ、それが段々と大きくなってきている。

「ザクッザッ」

「ライなにか……」

息を吐くようにしながらライに呼びかける。

ライを見たら月明かりに照らされたその横顔が見えた。

耳をピンとたっているのをさらに立ててるように見えた。


扉に近づけ。


近づくんだ。


謎の使命感が自らの体を動かす。

「あっ……ぁぁ……」

耳に残るこの金属音。

前に進もうとすればするほど、足につく鉄輪が酷くめり込む。

ダメだ……ここで諦めたらダメなんだ

痛みなんてもう忘れた。

ただ私は前見て進んでいる。確実に一歩づつ。

「ガチャん」

金属が、私を締め付ける鎖が壊れた。

長年の劣悪な環境が不幸中の幸いというものだった。

気づけば全ての鎖が音を立てて崩れて言った。

解放の瞬間。

長年私を繋いでいた鎖はいとも簡単に腐り落ちていった。

「だっだれだ!」

焦る声がする。声が恐怖を表している。

ゆっくりとこちらに近づく足音

6頭の犬が全員同じ方を見て今にも唸りそうだった。

「だめ」

そう言って宥めた。

「お前ここ開けれるか」

そう問いかけると、酷く驚いたように砂利のふむ音がはねた。

「開けれるか」

「お、お前……なんでこんなことにいる……」

「開けれるか」

ただ問いかける。山梟の声が聞こえてくる。

「ギィィ」

扉が開いた。

月明かりと共にそっと覗き込んだのは、まばらな髭と、ボサボサの長髪の男だった。


私はこいつを知っている。

こいつを憎む

こいつを消す


そいつは……父だった。


その顔を見たその刹那

体の毛が全て逆だった。

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

下唇をぐっと噛み目をカッと開く。

「行け!」

その声の後、6頭の犬たちはライを先頭にする形でその男を襲った。

「う、うわぁぁあ!やめろ!やめろこのくそ犬どもめが!誰の金で飯食ってると思うんだよ!!」

腕に残った鉄輪が少し重く久しぶりに歩くせいか、立つと首が下がる。

「うわぁぁあやめろぉぉぉぉぉ」

その声を聞きつけ女が家から出る。

それを見た瞬間に3頭が走り飛びかかる。

「何事!?きゃ…きゃぁぁぁ」

あの時と一緒だ

犬の体の中から響く吠える声がする。

父、母、犬の声が重なり合う。

これが昔は嫌だった、隠れてた。けど今は違う。

何年も、私はこいつに閉じ込められた。

いつもそばにいてくれたのは犬たちだった、

なんで、私を産んだのか

なんで、私を殺してくれなかったのか、

なんで、なんで、なんで……

疑問だけがクルクルと鳶のように闇を廻る。

「しね……」

小声で荒れ狂う悲惨な現場を見ながら言う。

まるで何かに、悪魔に取り憑かれたみたいな、無気力さが自分を襲う。

これは自分じゃない。

「アヤ」なんてもう居ない。

「アヤはしんだ」

「いやだ!?やめろお前ら!」

「助けていや!たすけて!!!」

2人の元へとかけていき、まずは母の顔面をかんだ。

「痛い痛いっやめろ!やめろ!!!」

甲高い声が響く。

それを機に一気に犬たちが2人に襲いかかる。

「え、なに?痛いの?こんなのが?」

ふざけんなふざけんな

クソまずい血を吐き出し、笑う。

「たすけて!助けろ!!!」

「痛いぃいやいや、死にたくないぃぃぁぁぁぁぁあ」

怒号と悲鳴が交互に聞こえてくる。

「そのまま死ね」

そう言い放つと、ゴリっという音が闇の中から聞こえて、静寂が広がった。


「ライ、リリ」

そう言うと、2頭がこちらに来た、

「これから、森に向かうよこんなに騒いだからきっと人間が来ちゃう」

優しく撫でると優しい声を出しながら笑ったみたいだった。

持ち主のいなくなった家、オレンジ色の光だけが虚しく見える。

「変わってない」

箱に閉じ込められる前から変わってなかった。喧嘩をしていたあの居間、隠れていた押し入れ、何も変わってなかった。ここで笑ったこともあったのになにが変えたのだろうか。

冷蔵庫を開けると萎びたトマトが転がっていた。

グチャッグチャッ

無心に食べる。瑞々しい物を食べるのが久しぶりで……

不意に、前を見るとボロボロになって口に真っ赤な液体がこびりついている、惨めな女が写った。

「これが……私……?」

変わった。全く知らない自分がそこに映っていた。

口を拭うと、サラサラとした赤と、べっとりとこべりついた赤があった。


食べれる物を両手に抱えてそのまま外に出る。

すると、2体の屍を漁り貪り食うみんなが見えた。

「行こみんな、これ食べなから歩こ」

そういって、闇に溶けて言った。

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