終章
「さ、行こうか。」
何本か電話をかけたあとで小松沢が言った。審査の終わった会場は悲喜こもごもが飛び交ってにぎやかだった。その騒ぎを一歩離れたところから見ていた深雪たちは小松沢の後に続いて会場を後にする。
外に出ると今朝会場へ来たときとは違う風が吹いていた。深雪は目を閉じて風を楽しんだ。
「よくやった。」小松沢が三人を見て言う。
「はい。わたしもそう思います。」深雪が答える。
風音が笑う。
「うん、深雪らしい。」
「でもほんとに、すごいよ。わたしたち。」と実咲が言う。
「うん。」
深雪の頬を一筋の涙が通り抜けた。
「先生。」
深雪は小松沢を見上げて呼びかけた。
「不思議です。悔しさがぜんぜんありません。このチームで全力を出し切れたことが本当にうれしくて。悔し涙じゃなくて嬉し涙が出ます。」
「それでいい。おまえたちは本当によくやった。先生はどのチームの先生にもおまえたちを誇ることができるよ。」
「わたし、最初は本戦に行くために始めたんだと思います。わたしたちの町でやってる本戦に出たくて。今日それがあと一歩のところでかなわなかったのに、不思議と悔しさも悲しさもありません。今年の本戦は全力でボランティアやろうと思います。」
深雪はそう言って二人の方を向く。
「去年はさ、わたし一人だけで出たい出たいって言ってて出られなくてさ。悔しすぎてボランティアにも参加しなかったんだ。」
「今年は三人でボランティアやろう。」と実咲も言った。
「もちろん。」風音も同意する。
小松沢は黙って頷いていた。
「ね、もう一回あるよ、三人で挑戦できるチャンスが。」と実咲が言う。
「あんたなに言ってるの、わざわざ言うまでもなくやるに決まってるでしょ、来年も。」
深雪は笑った。
「風音、実咲にもあんたって言うんだ。」
「そこ?」風音と実咲が同時に聞き返した。
小松沢も声を上げて笑っていた。
「あああ、この気持ちはなんていう名前かな?」
深雪は空に向かって言った。
「名前を付けたらこの気持ちはそこに着地しちゃうよ。」
深雪の左側で実咲が言った。見ると実咲も空を見上げていた。
「今はまださ、名前を付けないまま浮かべておこうよ、この気持ち。」
風音は深雪の右側からそう言った。深雪は両腕を広げて二人の肩を抱いた。
「そうだね。」
三人で見上げた空は札幌のビル街が背伸びをしても届かないほどはるか高いところに広がっていた。
《了》
雪町フォトグラフ 涼雨 零音 @rain_suzusame
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