最終話 誰のものでもない未来を僕たちは(7)ー1
7
右足の感覚を確かめるように、一歩、また一歩と踏み出していく。
MRIの検査を終え、待合室へ戻ると、
僕が華代の下に辿り着くのと、彼女が弾かれたように顔を上げたのが同時だった。
彼女は小さくガッツポーズをするように拳を握り締め……。
「
総合病院の待合室は、大勢の人間でごった返している。
華代は感情を抑え切れずに伝えてきたが、不審の眼差しを向けられることはなかった。
「三十分後くらいに診察で呼ばれるってさ。座って待とう」
ソファーに腰を下ろすと、華代が嬉しそうに携帯電話を差し出してきた。画面に表示されていたのは、日本サッカー協会の公式サイト。
U‐19日本代表は、来年開催される二十歳以下の国際大会、
もちろん同学年の選手は伊織以外にもいる。しかし、彼らは高校生にしてトップクラブへの昇格を果たしているような、文字通りの超エリートたちだ。そんな同世代のベストメンバーだけを選出した代表候補に、ついに伊織が選ばれたのだ。
「凄いよね。私たちの学年からはたった三人しか選ばれていないんだよ。伊織が皆に認められたってことだもの。本当に嬉しい」
「
高校サッカー選抜が挑んだ欧州遠征において、
U‐19日本代表とは、それほどまでにレベルの高い場所なのだ。
僕らの学年の四月から十二月に生まれた選手は、U‐20ワールドカップへの出場を目標にするという意味では、最も不利な世代だ。伊織が選ばれたことが快挙なわけだが、きっと、この発表を見た楓は悔しがっていることだろう。
「たった二ヵ月で、伊織が急に遠くへ行ってしまったみたい」
何度も何度も携帯の画面を確認しながら、華代が嬉しそうに呟く。
「不思議だな。優雅だって年代別日本代表だったのにね」
「
一年半前、新生レッドスワンが誕生した時に、
「華代。本当に嬉しそうだね」
「当たり前じゃない。チームメイトが日本代表に選ばれたんだよ。もしも、このまま代表に定着出来たら、U‐20ワールドカップに出られるってことじゃない。ううん、それだけじゃない。伊織は大学に行くつもりみたいだけど、プロにだって……」
一年前なら鼻で笑われたかもしれない。けれど、華代の言葉はもう、ただの幻想じゃない。
高さも強さもスピードもある知性派のCB。そんな選手、
伊織は高校二年生だ。進路を決めるにはまだ十分に時間があるけれど、恐らくこれからは世界が彼を放っておかない。たった一年で、そんな場所まで駆け上がってしまった。
「……伊織のこと、見直したんじゃない?」
「それ、どういう意味?」
華代の目を見ずに告げると、低い声で問い返された。
「どうって華代が思っている通りの意味だよ」
「断っておくけど、私、まだ優雅のことが好きだから」
総合病院の待合室は広い。僕らの会話が聞こえるような位置には人がいなかった。
「遠征から帰って来た日の夜に、伊織が言ってたんだ」
華代に見つめられていることは分かっていたが、真っ直ぐに前を見据えたまま続ける。
「夜になる度に思い知る。一日の終わりには、その人のことばかり考えてしまう。それが好きってことなんだろうなって、そんな風に伊織は言っていた。ずっと、恋愛感情なんて自分には無縁のものだと思っていた。皆のように人を好きになることなんてないと思っていたんだ。だけどさ、伊織のその言葉を聞いた時、初めて理解出来たような気がした」
「……それって、優雅にも一日の終わりに思い出してしまう人が出来たってこと?」
理性も
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