最終話 誰のものでもない未来を僕たちは(3)


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 さんが教えてくれたたかつきりようのインタビューは、可もなく不可もない記事だった。

 賢い監督なのだろうということは分かったが、手の内のすべてを晒しているわけではないのだろうということも容易に察せられる。それが実の父親のインタビューでなければ、途中で読むのをやめていたかもしれない。

 しかし、その記事を読み終えた今、僕の心ははっきりとざわついていた。

 記事には高槻涼雅の経歴として、三期連続で高校選手権に出場した東京代表、れいめいかんのコーチを務めていたこと、秋田代表を率いてベスト8まで勝ち上がったことが紹介されていた。

 そして、記事の末尾には……。

 現在、彼が複数のプロクラブから監督就任を打診されていることが記されていた。

 レッドスワンが準決勝で敗北したことで、恩師と戦うという先生の夢は叶わなかった。

 野望を果たせなかったわけだから、来年も先生はレッドスワンに残るはずである。そう考えた僕は、結局、大会後も彼女に将来についての質問をしなかった。

 だけど、高槻涼雅が高校サッカー界から身を引くとなれば話は変わってくる。もしもプロクラブから声がかかれば、先生がレッドスワンで指揮を執る意味もなくなるだろう。

 大会後に発売された高校選手権を特集した雑誌において、レッドスワンは六ページにわたる記事を組まれていた。数々の写真でイレブンが紹介されており、世怜奈先生のロングインタビューも収録されている。その中で、先生ははっきりと将来の目標を語っていた。

 いつかプロクラブで指揮を執りたい。そのための第一歩として、高校サッカー界で監督としてのキャリアをスタートした。そう明確に語っていたのである。

 今大会を通じて、世怜奈先生には最初から最後まで注目が集まっていた。

 当初は容姿や出自ばかりが注目されていたが、前年度チャンピオンを撃破し、インターハイ王者をPK戦にまで追い詰めたその手腕は、大会後、確かに評価されることになった。

 彼女のインタビュー記事を読んだ者は、決して少なくないはずだ。


 ベッドに入っても世怜奈先生のことを思い出してしまい、寝付けなかった。

 あと一年、もう一年、彼女から学びたい。もっと沢山のことを教えて欲しいし、僕らのことを見守っていて欲しい。そう強く願っているのに、不安が頭から離れない。

 あの大会以来、先生がチームの目標について語る姿を見ていなかった。インターハイ予選で負けた時は、出場出来るかも分からなかった選手権予選のことを強気に語っていたのに、翔督に負けた後は、リベンジだとか再チャレンジといったニュアンスの発言をしていない。

 結果をしゆくしゆくと受け止め、敗戦の責任を自ら一手に引き受けていただけだ。

 高校サッカーに興味を失った彼女は、プロクラブから声をかけられるのを待っているんじゃないだろうか。そんなは僕のだいな妄想だろうか。

 あいつのせいで、あの父親のせいで、せいひつな夜のしじまが不安で塗り潰される。

 ただ、ひたすらに世怜奈先生のことが頭から離れなかった。


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