第二話 常初花の一撃(4)ー3
鬼武先輩のロングスローを見た人々は、少なからず驚いたことだろう。
だが、観客や青陽が本当に驚くことになるのは、この後だった。
人数を集めて守るチームの中央を崩したいのであれば、まずは敵の陣形を横方向に広げなければならない。セオリー通り、彼らはサイド攻撃を仕掛けてきた。
後方の選手が前の選手を積極的に追い越して、マークのずれを作る。その
しかし、サイドから攻撃を仕掛けるということは、それだけボールがタッチラインを割る可能性も高くなるということである。やがて、彼らのミスでゲームの流れが再び途切れた。
ボールが外に出たのは、レッドスワンの自陣深い位置である。すぐに奪い返してチャンスに繫げるつもりなのだろう。レッドスワンのスローインとなったにも関わらず、青陽の選手は多くがタッチライン付近に残っていた。そこに再び、逆サイドから鬼武先輩が歩いてくる。
レッドスワンが何をしようとしているのか。すぐに気付けた人間は、恐らく一人もいなかったはずだ。それくらい、僕らがやろうとしていたことは奇抜な手段だった。
ロングスローを得点機に繫げられる特別な選手がいる場合、どちらのサイドにおいても一人の人物がスローインをおこなうのは
もしもこの作戦を実行に移したのが他のチームであれば、単なる時間稼ぎとして警告を受けたかもしれない。しかし、レッドスワンにおいてのみ、この作戦は明らかに効果的な手段だった。誰がどう見ても、鬼武先輩のロングスローは平均的な飛距離を超越している。加えて、長身選手をこれだけずらりと並べるレッドスワンは、空中戦でなら確実に勝ててしまう。時間も使いながら、最も確実にボールを最前線へと運べる戦術となっているのだ。
青陽のフィールドプレイヤーは、足元の技術に
敵陣深いエリアならともかく、自陣からロングスローとヘディングでボールを繫いでも、決定的なチャンスは作れない。だが、そもそもレッドスワンの目的は時間稼ぎであって、ゴールを目指すことではない。
ペナルティエリアには進入しないから、唯一の長身選手であるGKもボールをキャッチング出来ない。
レッドスワンが繰り出した新戦術に対して、青陽には打つ手が何一つなかった。
レッドスワンの武器はロングスローだけではない。
選手権予選の決勝で見せた『超長距離セットプレー』も当然、導入されている。どんなに後方からでも、ファウルを受けた場合、必ず最前線まで
八十分で決着をつけたい青陽を
スローインを与えれば、時間を使われた
ファウルを犯せば、セットプレーによって押し込んだ陣形がリセットされる。
激しいプレスによって主導権を握ろうという彼らの狙いは、完全に裏目に出始めていた。
敵が集中力を欠いた時にこそ、誰よりも輝くのが、チームの頭脳、
中盤の底、心臓部に構え、圭士朗さんは散漫になった敵のパスを次々とカットしていく。
子どもの頃から高校選手権に憧れていたという圭士朗さんは、どれだけ激しいブーイングや野次を浴びても、顔色一つ変えずに、ゲームの中心となって躍動していた。
相手は前年度王者である。フィールドに立つ選手のほとんどが、圧倒的な身体能力の持ち主だ。自分より足の速い選手、小回りのきく選手、反射神経に優れた選手、そのことごとくに知性と読みで打ち勝っている。
色眼鏡無しに、後半のMVPは圭士朗さんだろう。
ゲームが六十分を過ぎた頃より、世怜奈先生が再び動き出す。
敵がゲームの流れに慣れてきたと見るや、今度は選手交代によって
高校選手権では四名まで選手交代が認められている。過密日程の中で疲労を蓄積させないために、世怜奈先生は毎試合、四名の交代枠を使い切るつもりでいた。選手交代に要した時間はアディショナルタイムとして追加されるが、ゲームの流れを途切れさせることは出来る。
ファウルを犯さず、スローインも与えずに攻め込む。二つの条件を念頭に置きつつ、
しかし、選手交代ならば、相手のスローインでも、与えてしまったファウルでもおこなえる。
一年生の
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