第一話 年満月の月天心

第一話 年満月の月天心(1)ー1

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 十二月一日、火曜日。

 先生の攻撃的な記者会見から一夜が明け、お昼休みの部室に、アシスタントコーチである僕と三人の三年生が集められた。いつものように、のんびりと昼食を食べてきたのだろう。最後に先生が部室にやって来ると、おにたけ先輩がその場に立ち上がった。

「先生。俺、昨日の話、マジで考えてみようと思ってる」

「そっか。私も悪い話じゃないと思うよ。ただ、しんすけには別の話もあるかもだから、返事は大会後まで保留にしても良いかもね」

 副キャプテンを務める鬼武慎之介は、五十人以上が入部した学年にあってナンバーワンの実力を誇り、一年生の夏からレギュラーFWフオワードに定着していた選手である。新チーム立ち上げ時にポジションをコンバートされ、現在は右SBサイドバツクを務める攻守のかなめだ。

「昨日の話? マスコミに何か言われたのか?」

 手鏡で自分を見つめながらづき先輩が尋ねる。

 葉月先輩は鬼武先輩に勝るとも劣らない実力者だが、病的なほどにナルシストである。世界中の誰よりも自分が大好きという、真性の痛い人間ではあるものの、貴重なレフティであり、緩急自在なドリブル、正確な長短のキックと、多くの武器を持つ左SBだ。

 DFデイフエンスの両端、SBは一見、地味なポジションである。しかし、現代サッカーでは攻撃の起点となることが多く、統計的には最も多くのパスが集まるポジションだった。ボールに触る機会が多いSBがミスをしているようでは、ゲームを落ち着かせられない。そんな判断から、実力者である三年生の二人に、先生はSBを務めさせていた。

「慎之介に東京の大学から推薦のしんがあったの」

「へー。そりゃ、良いな。ティーチャー、俺にきつぽうは届いていないのかい?」

「今のところは慎之介だけだよ」

 インターハイ予選でかいせい学園に敗北した後、三年生には部に残るかどうかの決断が求められた。選手権予選は十一月まで続く。高校選手権への出場権を獲得出来れば、年をまたいで戦うことになり、決勝戦の開催は一月十一日だ。今年度はセンター試験の五日前である。

 高校選手権に全力を尽くすなら、受験勉強を犠牲にすることは避けられない。

 あかばね高校はいわゆる進学校のため、例年、九割以上の生徒が大学進学を希望している。

 スポーツ推薦で入学した葉月先輩は、赤点追試組の常連であり、僕らの学年の問題児、あの三馬鹿トリオに匹敵するほど学力は低いらしい。部に残るかどうかを聞かれた時も、

『俺に努力と勉強は似合わない。サッカーでれいに推薦をもらうさ』

 などと宣言していた。

「正直、俺は浪人を覚悟していた」

 鬼武先輩がしゆしような顔で告げる。

「レッドスワンを守って夢の舞台に立てるなら、浪人なんて犠牲でも何でもない。そう思ってたんだけどな。こうやって推薦がもらえたのは、先生と仲間のお陰だ。感謝してる」

 新生レッドスワンが立ち上がった時、実績を持たない世怜奈先生の監督就任に誰よりもいきどおっていたのが鬼武先輩だった。しかし、先生はそんな鬼武先輩の激情に結果で答え、先輩もまた、言葉にたがわぬ努力を見せる先生のことを、いつの間にか信頼するようになった。


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