最終話 赤白鳥の星冠(8)


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 美波高校を倒した日から、様々なものが変わっていったように思う。

 県を制したことで、約束通り、サッカー部に下されていた死刑判決はくつがえった。

 全国中継を伴う高校選手権への出場は、これ以上ないほどに高校をアピールする宣伝材料となる。わずか一年前、理事会にけむたがられ、廃部寸前まで追い込まれたサッカー部は、勝ち取った栄光により、存在意義を自らの力で示して見せた。

 ひつきよう、大人の世界は結果がすべてということなのだろう。

 選手権予選に敗退した時点で退職することになっていた先生だが、彼女に悪態をついていた教師たちも皆、それまでの暴言など何処吹く風で態度を変えてきたらしい。

 世怜奈先生は他人の目を気にするタイプではないため、過去の発言を根に持つこともない。

 寛容な彼女は、実にえんかつに学校側との関係を修復していった。


 春から話題になり続けているまいばらが、ついに全国の舞台に登場する。

 レッドスワンを取り巻くけんそうは、いよいよ制御し切れないレベルの熱を帯び始めていた。

 だが、どれだけ周囲のムードが加熱しても、世怜奈先生の指導にぶれが生じることはない。彼女の目に油断の色が浮かぶ瞬間はなかった。

 世怜奈先生の目標は、全国の舞台で誰にも否定しようのない結果を残し、監督としての能力を世間に認めさせることである。それを足がかりにしてプロクラブの世界へと飛び込んでいく。彼女が思い描く未来はそういうものだ。高校選手権への出場などスタート地点に過ぎない。


 新潟県大会は十一月十四日に終わったが、出場チーム、四十八校がそろうのは一週間後の十一月二十一日である。

 組み合わせ抽選会がおこなわれるのは、そのさらに二日後だ。

 一年前、世怜奈先生が県の制覇を目標に掲げた際、部員たちの多くがそれを笑った。

 しかし、彼女の指導により、レッドスワンは生まれ変わっている。

 高校選手権は夢の舞台だが、一回戦の勝利を目標としている者など、チームには既に一人もいない。誰もが優勝だけを目標に据えて、練習に打ち込んでいる。

 どんな相手にも戦術次第で渡り合うことが出来る。サッカーはそういうスポーツだ。そういうスポーツであることを僕らは自ら証明して見せた。全国の舞台でも同じことが出来ないはずがない。


 自分より強い者に立ち向かうことを楽しむ勇気。

『生還』を果たしたレッドスワンには、そういう美しいメンタリティが存在していた。


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