最終話 赤白鳥の星冠(4)ー1


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 まいばらづかりゆうせいの十年は語られるだろうぜつせんを経て、決戦は後半へと進む。

 監督のプライドと名誉を守るため、絶対に負けるわけにはいかない。そんな気持ちを抱えているのは両軍共に同じだろう。手塚は世怜奈先生の采配を一刀両断に切り捨てたが、レッドスワンの中に手塚に同意する者などいない。

 僕たちは世怜奈先生の覚悟と哲学を知っている。

 延長まで守り切り、PK戦で勝利するつもりだと、手塚は断言していたけれど、そんなことは考えていない。PK戦には運の要素がつきまとう。そんな不安定な作戦を選ぶものか。

 僕らは美波高校を打ち倒すため、後半にはまったく別のプランを用意していた。

 後半戦の頭から美波高校のベンチは動く。

 SBサイドバツクとボランチをベンチに下げ、新たに二人のFWフオワードを投入してきたのだ。レッドスワンに攻め気なしと判断し、守備陣を削って前線の枚数を増やしたのだろう。

 交代で入ってきたFWは、美波高校の登録選手の中で最も身長が高かった。彼の投入により、からまわりし続けた空中戦にも活路をいだすつもりだろうか。

「面白いくらいにこっちの手の平の上で踊ってくれるね」

 隣に立つ世怜奈先生が楽しそうに呟く。

 FWを五枚にするという采配は思い切った手である。奇抜な手を打つことで、こちらの動揺を誘ったのかもしれないが、高さのあるFWについても、強力なミドルシュートを打てるもう一人のFWについても、その特性は既に選手の頭に入れてある。想定内のカードだった。


 ゲームの流れに変化が起こったのは、後半開始から五分も経たない頃だった。

 奪ったボールを足下に収めたけいろうさんが、プレスにきた選手をかわし、前線にドリブルでボールを運び始める。圭士朗さんはチーム内でも取り分けキープ力にける選手である。しかし、これまではほとんどの場面で、簡単に前線の三人にボールを配給していた。

 突如始まったドリブルに慌て、中盤の選手が遅れ気味にスライディングタックルを試みる。

 次の瞬間、足を引っかけられた圭士朗さんは、勢いそのままにボールを摑みながら転倒していた。即座にホイッスルが吹かれ、本日、初となるイエローカードが提示される。


 圭士朗さんが倒されたのは、ハーフウェイラインより十メートルほど自陣側のエリアだった。

 この位置なら、近くの仲間にショートパスを通して、ゲームを再開するのがじようせきだろう。ところが、圭士朗さんはすぐにリスタートすることはしなかった。その隣に、左サイドからづき先輩が近付き、後方からおりも歩み寄る。

「ナイスプレー。この後も期待してるぜ」

 伊織は圭士朗さんの肩に手を置いた後で、そのまま前線へと歩いていく。

 げんの眼差しを浮かべた美波高校の選手たちも、やがて目の前で展開されようとしていた事態に気付く。右SBのおにたけ先輩もまた、前線へと歩みを進めていたからだ。

 ボールをセットした圭士朗さんは、葉月先輩と共に助走のための距離を取る。

 美波高校のベンチに目を向けると、手塚が憎々しげな眼差しを圭士朗さんに送っていた。彼もこちらがやろうとしていることに気付いたのだ。

 美波高校のペナルティエリア内に、伊織、リオ、常陸ひたち、三人の長身選手が集まる。その周囲に衛星のように、鬼武先輩とてんが位置し、残りの選手は全員が自陣エンドに引いていた。

 どれだけテクニックに優れていても、どれだけスピードで勝っていても、高さとパワーに任せたセットプレーでは、その長所が上手く生かせない。ファウルを受けた位置がどんなにゴールから遠くても、無理やり得意なフィールドに持ち込んで勝負する。

 身長を百九十センチ台に乗せた三人を前線に送り込み、決定力のある二人に零れ球を狙わせる。それが、この決勝戦のために準備してきた『セットプレー』だった。

 敵ペナルティエリアで待ちかまえる味方までの距離は、およそ四十メートル。

 圭士朗さんや葉月先輩でも、そこまで正確なボールは配給出来ないだろう。しかし、距離が遠いということは、それだけボールの滞空時間も長いということである。落下地点の把握能力に優れる常陸を筆頭に、長身三人の誰かが先に触れる確率は高い。

 長い助走から圭士朗さんが高さのあるボールを蹴り込み、伊織と常陸の待つファーへと飛んでいく。落下地点はペナルティエリアの中だが、GKゴールキーパーが飛び出せる位置ではない。

 マークをものともせずにジャンプした常陸は、頭一つ抜け出した状態から、身体を捻って真横にボールを落とす。そのボールにニアで待ちかまえていたリオ、ペナルティエリアの外で待ち受けていた鬼武先輩、天馬の三人が走り込む。

 ボールに最初に追いついたのは天馬だった。

 走り込んだ勢いのまま、その左足が振り抜かれる。

 身体を投げ出したCBセンターバツクにブロックされてしまったが、それは、レッドスワンがようやく一本目のシュートに成功した瞬間だった。

 跳ね返ったボールは、美波高校の快速ウイングに先に追いつかれてしまったものの、レッドスワンは自陣に五人を残しているため、のカウンターは発動しない。

 セットプレーが不発に終わった瞬間から、伊織と鬼武先輩は全速力で自陣に戻っている。

 こちらの守備意識はまったく低下していない。リスクを冒すことなくチャンスを演出して見せたのだ。


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