最終話 赤白鳥の星冠(3)
3
ハーフタイムのドレッシングルームには、飽和しそうな熱気が満ちていた。
表層的に見れば、絶望的なまでに攻め立てられた前半戦だっただろう。美波高校は過去に対戦したどんなチームよりも破壊力のあるオフェンス陣を
「
「被シュートは十四本、枠内シュートは六本で、
「思ったよりも枠内に飛ばされたな」
「枠内シュートの半分は
現在のチームになって以降、鬼武先輩はほとんど笑顔を見せなくなった。チームを
「
もともと
「受信の準備が出来ました。丁度、ハーフタイムコメントが始まるみたいです」
壁際で作業をしていた
本日の決勝戦は、地上波で生中継されている。ハーフタイムに監督インタビューがおこなわれることになっており、
受信機に繫がれたタブレットが壁に立てかけられ、全員がその前に集まる。
『王者の貫禄を見せ、赤羽高校を圧倒していたように思います。ゴールが生まれていないことが不思議なくらいの前半だったように思いますが』
インタビュアーにマイクを向けられた
『
手塚の言葉を受け、カメラが現場を
『
『高校生にこんな戦い方をさせて恥ずかしくないのですか! あんなのはサッカーじゃない。あなたたちが見せたようなサッカーを、アンチフットボールと言うんだ!』
『それは負けた時の言い訳ですか?』
手塚が言わんとしていることなど百パーセント理解しているくせに、世怜奈先生は何を言っているのか分からないという
『こんなやり方で勝って嬉しいんですか? 狙っているのはPK戦でしょう? 延長戦まで守りきり、運で勝負する。ああ、運という言葉は訂正しましょう。
レッドスワンが見せた徹底的に自陣に引きこもる戦い方に、手塚は激昂していた。彼が
手塚の哲学と世怜奈先生の戦術は、根本から嚙み合わない。
『舞原先生、あなたは若過ぎるんだ。二十六歳という年齢で、チームを決勝まで導いた手腕は認めます。だが、高校サッカーは教育の一環だ。監督は指導者として子どもたちに正義を見せる義務がある。僕はあなたの戦い方を容認出来ない。どんな手を使ってでも打ち倒し、レッドスワンの息の根を止めさせてもらいます。あなた自身も正しい指導者について学ぶべきだ。僕の下に来て下さい。それだけの才能を、こんな風に浪費するなんて
大袈裟な身振りと共に、手塚は世怜奈先生に熱く語っている。
こんなハーフタイムの光景、見たことがない。全国何処を見回したって
『手塚先生、試合前にお伝えした言葉を覚えていますか?』
カメラの映像が切り替わり、世怜奈先生を真正面から捉える。
そして、彼女の唇から零れ落ちたのは……。
『私、お喋りな男は嫌いです』
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