第六話 錨星の挑発(4)
4
『この仕事にプロフェッショナルとして
かつて日本代表監督を務め、歴代最高の勝率を残したオシム監督は、そう述べたという。
僕らはプロではないし、高校生の本分が部活動であるとも思わない。それでも、今だけはすべての時間を、この競技に捧げたいと思っていた。
偕成学園との激闘を制した翌日、日曜日。
遊びに来た
スピードとショートパスを武器にした美波は、大会を固定メンバーで戦う傾向がある。
年代別日本代表、二年生エースの
美波高校には体育科が存在しており、レギュラーはほとんどが推薦で体育科に入学した生徒である。
監督の
高速アタッカー陣を抑えるためには、それぞれの特徴を頭に入れておくことが重要だろう。
月曜日、登校すると、
「決勝戦、楽しみだな」
振替授業の名目で、土曜日は全校生徒がビッグスワンに集まることになっている。
「あの会見のせいで凄いことになりそうだよね。ちゃんと席が取れるかな」
「それは大丈夫だよ。ビッグスワンの収容人数は四万人を超えているから、どれだけ大勢の人が詰めかけても、絶対にガラガラに見えるはず」
「そうかな。
今、世間がどんなことになっているのか、実のところ僕はよく理解していない。
試合の度に、迷惑なほどの黄色い声援を浴びているものの、そんな状況も次第に当たり前の風景になってきた。人はこうやって嫌なことにでも順応してしまうのだろう。
「
「準決勝は激しい試合だったしね。頭も切り替えなきゃいけなかったから……」
喋りながら愚かな僕は気付く。久しぶりの休日だった日曜日。僕は恋人にそれを伝えることも、連絡を取ることもしなかった。目前に迫る決勝戦で頭がいっぱいだった。
真扶由さんの横顔からは、感情が読み取れない。
どうして休日だったのに教えてくれなかったの? デートは出来なかったの? そんな風に誰かを責めるような人ではないが、彼女の心に失望にも似た感情が微塵も湧き上がらなかったかと言えば、きっとそんなことはないだろう。
「……対戦相手を分析していたら、あっという間に休日が終わっていたよ」
別に遊んでいたわけじゃない。やるべき務めを果たしながら、忙しくしていたのだと伝えることで、少しでも真扶由さんに嫌な想いをして欲しくないと思った。
「決勝戦、頑張ってね。応援してる」
真扶由さんの恋人として、これからの季節を生きていこうと思うのであれば、きっと、僕は彼女の笑顔の向こうに、繊細な何かを感じ取れるようにならなければならないのだろう。
きっと、求めるだけでも、求められるだけでも、恋というのは上手くいかないのだ。
僕は真扶由さんの想いを受け止めてみようと思ったし、その先にある自分の感情を覗いてみたいとも思ったが、部活動が始まれば彼女は頭の片隅からさえも消えてしまう。
冷たいと責められても仕方がないだろう自分に
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