第六話 錨星の挑発(3)
3
インタビューが終わり、
「ねえ、先生! あんな奴と付き合うのか? 俺、嫌なんだけど!」
「趣味が悪いぜ! 自分のことを『僕』って呼ぶ奴は変態だ!
「エンダァァァァァァー! イヤァァァァァ! ウィルオオルウェイズラァヴュゥゥゥ!」
決勝点を蹴り込んだリオがホイットニー・ヒューストンを歌い上げ、
「あら、心配してくれたの? ありがと」
世怜奈先生は笑顔で三馬鹿トリオの頭を撫でていく。
「動揺して見せたのは演技だよ。せっかくの決勝戦だもん。沢山の人に見て欲しいじゃない。視聴者の興味を引くチャンスだと思ったんだよね」
「相変わらず
「なるほど。決戦前に私に何かあっても優雅がいれば大丈夫か。じゃあ、安心して死ねるね」
「監督なんですから、おかしなフラグを立てる発言は
僕の抗議に対し、先生は小さく舌を出して、悪戯な笑みを浮かべて見せた。
激闘を終えた選手は休息を必要としている。リフレッシュのために日曜日の部活動が完全に休みとなり、月曜日から再度、決戦に向けての練習が始まることになった。
あのインタビューのせいで、決勝戦には恐ろしいまでの注目が集まるだろう。今、チームに必要なのは、練習時間ではなく、メンタルをコントロールすることだった。
控えメンバーや出場時間の短かった
選手が練習をするというのに、コーチが帰るわけにもいかない。
グラウンドに向かうと
本日、チームを指揮したのは僕である。成し遂げた勝利による興奮状態は、簡単に冷めるものじゃない。話したいことも聞いて欲しいことも山ほどある。伊織との話は尽きなかった。
そんな風にして、三十分ほどの時間を過ごしただろうか。
「伊織、優雅」
振り返ると、
「盛り上がっているところにごめん。少し話があるんだけど良いかな」
「どうした? もう帰ったと思ってたよ」
想い人である華代の登場に、伊織の顔がほころぶ。こんな顔を三馬鹿トリオに見られたら、またからかわれてしまうだろう。
「あの時の話って、まだ、生きてるよね?」
伊織から視線を外して、華代が問う。
個人練習をおこなっているメンバーは、ベンチでの会話が聞こえるような距離にはいない。
「あの時の話って……俺の告白のことか?」
「随分と待たせちまったけど、次でいよいよ決勝だ。今度こそ勝利して見せるよ。チーム存続のためにも、これまで皆を支えてくれた華代のためにも」
照れという感覚がないんだろうか。こちらまで恥ずかしくなるようなことを断言する。
「……あのさ。僕、席を外した方が良いよね」
「別に構わない。すぐに終わるもの。それに、優雅に聞かれて困るような話なら、二人が一緒にいる時に話しかけたりしない」
それは、まあ、そうなんだろうけど、二人が良くても、こっちが気まずいのだ。
「これ、伊織に手紙を書いてきたの」
手にしていたファイルケースから
「手紙?」
「そう。告白の返事」
「……俺、選手権予選が終わった後で、返事を聞かせてくれって言ったよな」
戸惑う伊織に対し、華代は手紙を再度、突き出した。
「試合の勝敗で結論を変えたって思われたくないから」
伊織がその便箋を受け取り……。
「決勝戦が終わるまで読まないで。今は試合だけに集中して欲しい」
「なるほど。そういうことか。分かった」
「絶対に読まないって誓って」
「俺って信用ないんだな」
苦笑いを浮かべ、伊織は受け取った手紙をポケットに入れる。
「読まないよ。絶対に読まない。俺は約束を守る男だ。美波高校を倒して、華代を選手権に連れてってやる。それも、ここで誓っておく」
「別に、そういうのは誓わなくて良いよ。サッカーだもの。どんな決着だって有り得る。期待はしてるけど、たとえどんな負け方をしても、私は皆のことを誇りに思う」
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