第六話 錨星の挑発
第六話 錨星の挑発(1)
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三度目の正直で、ようやく
試合の感想を選手一人一人に伝えていた
一試合目を戦った
僕らはまだ何も成し遂げていない。決勝戦で美波高校を倒して初めて、未来が
「お前らがあんなに攻撃的に来るとは思わなかった」
こいつは試合が終わった後で、敵と喋らないと呪われる病気か何かなのだろうか。
いつものように
「過去の試合を研究したことが
「敗戦直後だってのに随分と冷静だな」
「俺はこれが最後のチャンスってわけじゃないしな」
加賀屋が目を向けた先で、
「もしも負けていたら、僕らも先輩とプレーをするのは今日が最後だったんだな」
「嫌味のつもりか? 負けるなんて微塵も思っていなかった。そう聞こえるぜ」
「負けると思っていなかったというより、負けた時のことなんて考えていなかったって言った方が正しいのかな。美波高校対策も続けてきたしね。偕成には絶対に勝つつもりだった」
「……お前、少し変わったな。前は何を考えているのか、さっぱり分からなかったのに」
加賀屋はスタンドに視線を移す。
僕に向けられた応援弾幕に苦笑いを浮かべた後で、とある一角に目を留めた。
「負け惜しみで言うわけじゃないけど、今日のやり方じゃ美波には勝てないぜ。お前らの攻撃は見事だった。でも、骨を切らせて肉を断つみたいな戦い方じゃ、ボロボロにされるぞ」
「骨を切らせたら、そこで終戦だけどな」
ことわざの間違いを指摘したのだが、加賀屋は気付かずに言葉を続ける。
「今、新潟でナンバーワンの選手は、美波の
加賀屋が
中学三年生の夏、僕は年代別の日本代表合宿に招集されている。
新潟から呼ばれた選手は二人おり、もう一人が望月弓束だった。僕も彼も共に人見知りをするタイプだったけれど、同じ県出身の選手ということで、多少の交流は持っている。
合宿には体育会系ノリの若者が多かったが、弓束は良く言えばマイペース、悪く言えば周囲の空気を
中学まで有名なクラブチームに所属していた弓束は、熱烈なラブコールを受けて美波高校に進学したと聞く。今でも時折、日本代表に招集されることがあるようだ。
「打ち合いなんて挑んでみろよ。トラウマになるレベルで
「それって加賀屋は僕らを応援してくれているってこと? 選手権で県代表に結果を出して欲しいなら、美波が優勝した方が良いような気もするけど」
新潟県勢は高校選手権で優勝したことがない。
Jリーグチームの誕生に後押しされる形でサッカー人口が増え、育成環境の整備も相まって、県全体のレベルは上がっているが、
「
「その美人監督が言っていた言葉を忘れたのか? これからはレッドスワンの一強だよ」
「言うようになったじゃねえか。来年が楽しみだ。今度こそ、
加賀屋の請うような視線が突き刺さる。
彼は僕のことを最大のライバルと認めた上で、ずっと対戦を心待ちにしていた。
「分からない。来年のことは、まだ分からないよ」
「その回答で十分だ。やっと否定以外の単語を聞けたぜ」
満足そうに告げて、加賀屋はまだ悲嘆に暮れる偕成ベンチに戻っていく。
子どもの頃からサッカーを続けていれば、飽きるほどに敗戦を経験することになる。大切なのは敗北から何を学ぶかだ。加賀屋は来年を見据え、既に心を奮い立たせていた。
試合終了後に監督の記者会見が予定されているため、決勝進出チームには控え室が用意されている。用意された部屋に足を踏み入れると、
「何やってるの?」
「もうすぐ監督インタビューが始まるでしょ。また世怜奈先生が
美波高校の監督、
個性的な二人が臨む記者会見に、不穏な予感を覚えている人間は少なくないだろう。
華代が壁際にタブレットをセットし、部員たちがその前に群がり始める。
偕成学園撃破の興奮が冷めないのか、まだユニフォーム姿の選手も何人かいる。
「皆、ちゃんと汗の処理はしたの? 風邪なんて引いたら承知しないからね」
華代は内に
「ちょっと、ここで着替えないでよ! 向こうに更衣室があったでしょ!」
ユニフォームを脱ぎ出した三馬鹿トリオに、華代は容赦なくボールを投げつける。
「おい、てめえら! 女子がいるんだぞ! ちゃんと気を遣え!」
キャプテンらしく
「あー! 伊織が華代ちゃんを守ったー!」
「お? 華代が好きなんじゃね? マネージャーのことが好きなんじゃね?」
「欲シガリマセン! 勝ツマデハー!」
三馬鹿トリオの小学生レベルの挑発に、伊織が激昂する。
「てめえら、ぶっ飛ばすぞ! さっさと更衣室で着替えて来い!」
三匹の猿が伊織に追い出され、控え室に
やがて、監督インタビューの中継が始まる。
そして、その会見では、誰もが予想しなかった光景が繰り広げられることになった。
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