第五話 空蝉の鹿鳴草(6)
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監督が交代し、新生レッドスワンが始動したのは、もう十四ヵ月も前の話になる。
就任直後、
圭士朗さんは
前回の対戦で、敵は最もフィジカルに優れる
圭士朗さんは抜群のキープ力を誇るものの、見ての通り当たりには強くない。では、生来的に華奢なタイプは、フィジカルの弱さをいつまでも
ウェイトトレーニングを繰り返し、
筋肉を大きくするには
筋肉というのは持久力に優れる
生来的に線の細いタイプが、
この新しいメソッドにより、高負荷トレーニングが向かない人間でも、安全かつ平和に筋肥大を起こし、肉体を強化することが出来るようになった。
インターハイ予選から半年。
圭士朗さんは身長が一センチ伸び、体重は三キロ増加した。変わらず線は細いものの、肉体は大きく強化されている。百八十三センチ、六十四キロの身体は、決して貧弱なものではない。
トップ下に入った圭士朗さんは、厳しいショルダーチャージを何度かお見舞いされていたが、以前のように当たり負けはしていない。並の選手に倒されるような鍛え方はしていないのだ。
だからこそ、最も激しい戦場となる敵のバイタルエリアに僕は圭士朗さんを送り込んだ。
彼こそが
後半開始と共に、偕成学園は一人の選手交代をおこなっている。鬼武先輩に良いように振り回されていた左SBを、より守備の得意な選手へと代えたのだ。
しかし、後半開始から三分も経たない内に、再び右サイドの攻防は激化する。圭士朗さんが
僕は突破に限定して考察するなら、最強の攻めは『ワンツー』だと確信している。
ワンツーとは、パスを出すと同時にスペースへ走り出し、味方からのワンタッチの折り返しを受けるプレーである。壁パス的なシンプルな攻撃だが、敵は最初のパスに反応してしまったが最後、折り返されたボールには絶対についていけない。
前半戦、僕が天馬に横パス禁止を厳命したのは、手数を減らすことで、こちらの攻撃パターンを敵の頭の中に固定化するためだった。すべてはこの第三の攻撃のための布石である。
圭士朗さんが機を
動けないポストプレイヤーなど
圭士朗さんの右サイドへの介入は、完全に手がつけられない一手となっていた。
やがて偕成学園がろくに対策も打てないまま、その時が訪れる。
圭士朗さんとのワンツーで敵をかわした天馬が、裏に抜けた鬼武先輩にスルーパスを通す。
前方にボールをトラップすると、鬼武先輩はペナルティエリアへと突っ込んでいった。
人間の目は角度のついた動きに弱い。一流の
ペナルティエリアの十分に深い位置まで進入すると、鬼武先輩は中央を見据えながら、大きく左足を踏み込み、クロスのモーションに入る。
その動きを見て、GKの
クロスの角度が甘ければ、常陸かリオに渡る前にカットしてしまうつもりなのだ。
そして、誰もが
中央へのクロスをケアしようとしていたGKは一歩も動けない。
わずかな隙間しかなかったGKと右ポストの間をすり抜け、回転のかかった強烈なシュートがゴールネットに突き刺さる。
後半七分、
やはり僕の信頼に狂いはない。
鬼武先輩は間違いなく、今大会、最強のSBだった。
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