第四話 夢幻の白鯨(2)
2
二年次に進級する際、文系を選んだ僕は、
十月九日、金曜日。
三限、四限の調理実習において、僕は
「何でハンバーグを作るのにパン
華代が用意していく材料を横目に、ひき肉と
「パン粉を混ぜるとふっくらして口当たりが良くなるの。卵は繫ぎ。肉だけじゃバラバラになるでしょ」
「何でそんなこと知ってるんだ? 先生、授業で言ってたっけ?」
「華代は毎日、家で料理をしているものね。部活の後で家事までやってるんだから尊敬する」
「真扶由だって慣れた手つきじゃない。それに比べて一人暮らしのくせに
ぎこちない動きでハンバーグを成形していたら、呆れ顔で華代に見つめられた。
「優雅君。両手でキャッチボールするみたいに軽く叩きつけると良いよ。中の空気を抜くの」
誰よりも料理をしていなければならないはずなのに、僕は指示されたことしか出来ない。
「優雅、ストップ! 最初は強火で焼いて! 表面のたんぱく質が
成形が終わり、フライパンを火にかけると、即座に華代の注意が飛んできた。
「どうせ作るなら美味しく食べたいでしょ。両面に色がついたら火を弱くして大丈夫だから」
本日は自由にグループを作って良かったため、男子だけで組んでいる班も多い。それはそれで気楽なのだろうが、結果を考えれば、料理の出来る女子二人とチームになって正解だった。
「うん。
まだ熱いハンバーグを口に運びながら、常陸が述べた言葉に
「この程度の料理、レシピがあれば誰でも作れる」
そっけなく華代に切り捨てられていた。
「そんなことないと思うぜ。だって料理が上手い奴と下手な奴が確実にいるじゃないか」
「料理が苦手な人って、味覚や腕じゃなくて算数的な処理能力に問題あるんだと思う。せっかく設計図があるのに、数字を
本日の調理実習では、教師からのアドバイスがもらえないことになっていた。レシピを参考にしているはずなのに、悲惨な結果に終わった班も幾つか見受けられる。
女子二人の手際が良かったこともあり、後片付けまで他の班より早く済んでしまった。
先生が用意してくれた紅茶を飲みながら、授業終了時刻を待つ。
「ねえ、優雅君。今、近くの海に
「へー。去年も
「あの時はミンククジラだったっけ。私ね、小学校の修学旅行で
真扶由さんとのお喋りを、華代と常陸は穏やかな眼差しで聞いていた。
僕は自分のことを話すのが好きではない。真扶由さんと付き合っていることは常陸にも話していないが、もしかしたら、とっくに気付かれているのかもしれない。
「クジラ、
「月曜日の練習は午前だけだね。柳都浜なら部活後に歩いて行けるか。優雅の足も回復したし、練習後に皆で行ってみる? 私もクジラを見てみたい。常陸はどうする?」
「え……。俺も行って良いのか?」
「駄目な理由がないでしょ。あと二週間で初戦だから無理もないけど、私、最近の常陸は気負い過ぎだと思ってた。リフレッシュの必要性を感じてたんだよね」
真面目な常陸には考え過ぎてしまうきらいがある。
部員のメンタルに人一倍、注意を払っている華代は、ずっと気にかけていたのだろう。
真扶由さんともリバイバル映画を観に行って以来、デートらしいデートをしていない。
ホエールウォッチングはそれぞれにとって、良い気分転換になるかもしれなかった。
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