第四話 夢幻の白鯨
第四話 夢幻の白鯨(1)ー1
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『準決勝の指揮を
この三年間、
美波高校には分かりやすい特徴があるが、偕成学園にはこれといった特徴がない。攻守にバランス良く選手を
オーソドックスに強いというのは、挑戦者からすると本当に
「優雅、
放課後、部活前のミーティングで世怜奈先生の下に出向くと、新入部員である
「吐季って食事に関心がないから、放っておくと水分もとらないんだよね。でも、紅茶なら自分でも
世怜奈先生に弟がいたというのは初耳だった。彼女の
「優雅、今、行き詰まっているでしょ。吐季と話すとヒントが摑めるかもしれないよ。吐季ってさ、まあ、
吐季さんとは何度か会ったことがあるが、彼の人間性や才能までは分からない。
「舞原の子どもは大抵、同じ私立中学に通うんだけど、私たちの母校には全学年合同の球技大会があったの。吐季は一つ年下だから、あいつが二年生の時の話だったかな。その年、吐季のクラスはサッカー部の生徒が一人もいなかったのに優勝してるんだよね」
「吐季さんって運動も出来るんですか?」
「まあね。ただ、絶対に全力を出さないの。自覚的に
「つまり吐季さんが一人で何とかしたってわけではないんですね?」
「他人を
対偕成学園のアイデアが行き詰まっている今、興味を引かれないと言えば噓になる。
劣る戦力で球技大会を制した方法。そんな方法があるなら、ぜひとも聞いてみたい。
吐季さんは市内で最も家賃が高いというマンション、ノーブルハイツに住んでいた。
経営者である親族にマンションの一室を与えられ、管理人として暮らしているらしい。
「どんな仕事をしたら、こんなところに住めるんだろう」
あまりにも
これだけ大きな建物なのに、入居出来るのはわずかに八世帯であるという。しかも、その内の一室は管理人の吐季さんが使用しているのだ。一般人には理解出来ない世界の話だった。
「そう言えば、華代はどんな家で暮らしてるの?」
「この建物を見た後で、よくそういうことが聞けるね」
非難めいた言葉と共に華代が振り返る。
「うちもマンションだよ。先生に聞いたら、家賃は十分の一どころの話じゃなかったけど」
華代の家庭は四年前に両親が離婚している。弟とも死別しているため、現在は父親と二人暮らしだったはずだ。
「優雅はさ、将来の家族のことって考えることある?」
季節の花々が咲き誇る花壇を眺めながら、華代が問う。
「将来の家族?」
「両親のせいにするわけじゃないけど、私は自分が家族を持つ姿を想像出来ない」
「家族か……。いない方が当たり前だったからな」
僕は無口で感情を見せない祖母と二人で生きてきた。二年前に施設に入った祖母とは、もう半年以上会っていない。
「優雅は家族が欲しいって思うことはないの?」
「今のところは考えたこともないかな」
「
華代の瞳は僕を非難しているようにも見えたし、憐れんでいるようにも見えた。
「僕らはまだ高校生だよ」
「でも、好きだから付き合ってるんじゃないの?」
「よく分からないんだ。自分のことなのにさ、昔から自分の気持ちがよく分からない」
「その言葉は多分、優雅にとって偽りのない事実なんだろうね。そうやってはっきり言ってもらえば私は理解出来るよ。でも、優雅は自分の話をほとんどしないから、周りの人間には正しく伝わっていない気がする。それが
僕は今、華代に非難されているのだろうか。それとも同情されているのだろうか。
「……約束の時間だ。行こう。吐季さんが待ってる」
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