第二話 勿忘草の炎帝(2)
2
放課後のチーム練習は、毎日二時間以内と定められている。
大切なのは時間ではなく質と密度である。知性の伴う練習の重要性を、
トレーニング後の自主練習は各自の
今でこそレッドスワンは
「……そんなわけで、彼をサッカー部に勧誘するよう、世怜奈先生に言われたんだ」
三乃松中学出身、レフティアタッカーの
体験入部時のアンケートによれば、彼は春の身体計測で百七十センチ、五十六キロという値を記録していた。この五ヵ月で多少背も伸びているだろうが、ごく平均的な体格の持ち主と言えるだろう。希望するポジションは
「中学の時の対戦を覚えてるよ。三乃松は強豪だしな。三回はやってると思うぜ。最後に戦ったのが二年以上前の話だから、順調に成長してりゃ確かに戦力になるかもな」
「伊織は覚えてるんだ。僕はあんまり印象に残ってないんだよね」
「あいつ、
「プレーまでは記憶に残ってないかな。マンマークはつかない試合の方が珍しかったし……」
「あの頃、お前をライバル視していた奴は多かったしな。まともに相手になっていたのなんて
華代のタブレットに目を落としていた圭士朗さんが口を開く。
「それで優雅には何か案があるのか? 本人は入部しないって言い張ってるんだろ?」
『少しで良いから考えて欲しい』との言葉を受け、現在、告白の返事は保留中である。
真扶由さんは華代の唯一の友人だ。この件に関して話したことはないが、きっと華代もある程度の事情を知っていることだろう。
僕たちの間には幾つもの複雑な感情が交差しているものの、この一週間、誰の態度にも変化は生じていない。感情と理性を切り離して付き合える。そういう大人な感覚を抱けているからか。触れたら壊れてしまうほどに
「まったく思いつかないよ。先生は一度、お手本を見せたって言うけど、楓の説得なんて参考にならない。共通項なんてどちらもプライドが高いってことくらいだ」
「話を聞く限り、そいつは精神的にいじけてしまっているんだろ?
圭士朗さんは六人兄弟姉妹の長男である。
「弟や妹がへそを曲げてしまった時って、圭士朗さんはどうするの?」
「かまってこちらが気分を害するのも馬鹿らしい。普段は放置さ。だが、今回はそういうわけにもいかない。華代、マネージャー目線で何か案はないのか?」
華代はそっけなく首を横に振る。必要以上に他人への興味を抱かない華代に、機嫌を損ねた生徒の説得を期待するなんて、土台無理な話だろう。
いきなり話が
「俺に一つ、考えがあるぜ」
伊織がキャプテンらしく自信に満ちた表情を浮かべた。
「世怜奈先生が言っていた通りじゃないか。説得ってのは『納得させることじゃなくて、相手をその気にさせること』だ。優雅に対抗心を見せる奴なんて、大抵、自信家だからな。天馬って奴も自分の実力に絶対の自信を持ってるはずだ。そいつを利用して、その気にさせてしまえば良い」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます