最終話 情熱の赤翼(4)


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 赤羽高校がリードを奪ってゲームを折り返す。それは、戦前の予想を大きく覆す結果だった。

 守備一辺倒だったレッドスワンの戦いを、見ていた人たちがどう思ったかは分からない。それでも前半終了間際の攻撃は見事の一言だったはずだ。クロスの軌道も、ポストプレーの精度も、豪快なフィニッシュも、すべてが美しかった。

 当初の予定では、だかを入れて後半に得点を狙いにいく予定だったが、先生は采配を変えるだろうか。

 タイムアップまで守り切れる保証もないけれど、現在のところ、守備にほころびは生じていない。メンバーをいじるのは冒険でもある。

 ドレッシングルームに戻ると、先発した選手に疲労の色はほとんど見られなかった。得点には疲れや精神的な重圧を吹き飛ばす力がある。けいろうさんの一撃がチームにもたらしたパワーは計り知れないものがあった。

「前半は望外の結果を手に出来たけど、後半のプランは変えないわ」

 テレビ中継用にハーフタイムのコメントを出した後、ドレッシングルームに入るなり、世怜奈先生はそう宣言した。

「予定通りろうに十五分プレーしてもらって、それから穂高を投入します。フォーメーションは4‐2‐3‐1に変更。二列目は左から穂高、リオ、りよういちで行く。皆、まだ走れるわね?」

 先発メンバーたちが力強く頷く。

「偕成学園はこれまでの相手とはレベルが違う。守り切ろうと思って守り切れる相手じゃない。同点に追いつかれても良い。逆転されても構わない。もう一点、取りに行くわよ」

 設立当初、チームが掲げていた作戦方針は、仮に得点を奪えなくても、守り切って勝つというものだった。しかし、正GKの離脱により、当初のプランは完遂が難しくなった。かえで抜きで偕成学園を相手に、クリーンシートを達成するのは難しい。

しんすけづきは今大会、最強のSBコンビよ。守備でも攻撃でも君たちにかかる負担ばかりが大きくなってしまったけど、今日まで二人は完璧に期待に応えてくれた。あしざわ先生は中継を見ながら、きっと誇らしく思っているはず」

 続けてもりこし先輩の肩に先生の手が置かれる。

まさには出来ることと出来ないことを見極められる勇気と知性があった。仲間のために犠牲になれる将也がいたから、チームは崩壊しなかったの。言い争ってばかりの守備陣を、いつもいさめてくれたよね。君がいなければ、きっと、私たちはここまで辿り着けなかった。三人の三年生が築いた土台の上に、今のレッドスワンは成立している。そして……」

 世怜奈先生は下級生たちに向き直る。

「点を取るのは二年生の仕事よ。もう誰にも『ウドの大木世代』なんて呼ばせない。君たちはあだばななんかじゃない。たった一点じゃ満足出来ないでしょ。テレビ中継も入ってるんだもの。後半も私たちの力を見せつけてやりましょう!」


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