最終話 情熱の赤翼
最終話 情熱の赤翼(1)
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激闘の末に県総体の初戦を制したとはいえ、翌日には二回戦が控えている。
僕らのゲームの直後におこなわれた試合の勝者が次の対戦相手となり、そこにも勝てば、火曜日の三回戦までこの会場で戦いが続く。
クールダウンを終えたメンバーと共に観戦した試合は、凡戦と呼ぶべきゲームだった。
正直、次戦の相手には恵まれたと言って良いだろう。二回戦は初戦で退場した
順当に行けば、三回戦では八つあるシード校の一つとぶつかることになる。九日間で六試合の過密日程である以上、休ませられる時にレギュラーを休ませなければならない。
結局、二回戦では五人の交代枠もきっちりと使い切り、四対一というスコアでゲームをものにすることになった。
県総体の初戦を終えた後で、チームには一つの予期せぬ大きな波が押し寄せている。
もともと彼女は女性監督ということで注目を浴び始めたわけだが、下世話なスポーツ新聞で言及されたのは、予想通り、その美しい容姿についてばかりだった。大袈裟な見出しと
日曜日の二回戦。スポーツ新聞を読んだ観客が押し寄せ、さらなる波が生まれる。
采配を振る世怜奈先生の
舞原世怜奈は女優と比べても遜色ない容姿をしている上に、百七十センチに届こうかというモデル並みのスタイルである。一度、注目が集まってしまえば、その勢いを止める術はない。一夜にして彼女のファンが全国各地に誕生していた。
この大会を最後に、サッカー部を廃部にしたい理事会は、ネット上に突如発生したムーブメントに頭を痛めていたが、世間の関心を遮る方法はない。
試合の度に野次馬的な観客が増加していき、レッドスワンはある種、異様な環境下で県総体を戦っていくことになった。
二回戦で主力を休ませることに成功し、月曜日を挟んで、三回戦の相手と対峙する。
次の敵は予想に反して、シードチームではなかった。
最少得点で二試合を勝ち切った、堅守、
そして、この日を境に、チームを取り巻く状況はさらなる混乱へと向かっていった。
押し寄せた観客がこぞって世怜奈先生の姿を写真に撮り、インターネット上にアップしていたわけだが、その流れに伴い、いつの間にか僕にまで注目が集まり始めていたのだ。
いつも監督の傍にいる色白の美少年。あの背番号10は誰なのかと、今度は女性たちが騒ぎ始めたらしい。
伊織にSNSで拡散されていた情報を見せられ、愕然とすることになった。
僕は中学時代に年代別の日本代表に選ばれた経験があり、ネット上にもその時の記録が残っている。去年の県予選で得点王だったことも、既に突き止められていた。
何故か試合に出場せずに、監督の隣で戦いを見守る美少年。
その正体は、日本代表歴を持ち、前年度の県大会得点王でもある天才少年だった。
わずか数日の内に、
四回戦に勝利すれば、次はとうとう準決勝、
チームの緊張感は高まる一方だったが、張りつめた気持ちとは裏腹に、スタンドには平日にも関わらず野次馬的な観客が増えていた。
好奇の目に晒され、カメラの望遠レンズを向けられるのは、気分の良い話ではない。だが、世怜奈先生はまったく気にした様子を見せていなかったし、選手に余計な注目が集まるよりは良いと、僕も割り切るしかなかった。
ここまで来れば、主力を温存する余裕などない。準々決勝の相手は今度こそシード校であり、チームはレギュラー陣を全員先発させた状態で戦うことになった。
レッドスワンは部員数の関係で、ほとんどのメンバーがベンチ入りメンバーとなる。そんなこともあり、これまでレッドスワンの応援席は非常に淡泊だったのだが、勝手に増えていった野次馬のお陰で、四回戦には観客席からの声援が彩りとして添えられるようになった。
三回戦と同様、この試合でも得点はセットプレーから生まれることになった。
前半の早い段階で、コーナーキックから伊織がヘディングでシュートを叩き込み、後半も最後まで虎の子の一点を守ることに成功する。
直後の試合のために控えていた偕成学園の眼前で、僕らは辛くも勝利を収めたのだった。
これで前年度に続き、インターハイ予選ベスト4進出である。一時は修復不能とさえ思えたチーム状態も、勝利の積み重ねにより、完全に息を吹き返していた。
同じく四回戦に挑んだ偕成学園は、四対〇という圧倒的なスコアでシード校を下す。
去年は控えメンバーだった
レッドスワンが存続するための条件は、決勝に勝ち残ることである。
目標まではあと一勝。
ついに僕らは、偕成学園との再戦にまで辿り着いたのだ。
決戦は二日後、六月六日の土曜日に開催される。
レッドスワンへ急速に集まり始めた注目は、命を賭けた戦いを前に、ある一つの大舞台を用意していた。準決勝にローカル局のテレビ中継が入ることになったのである。
野球の甲子園予選ならいざ知らず、県総体のサッカー準決勝がテレビ放映されるなんて異例の事態だ。世間の注目度は、僕らが想像しているよりも遥かに高いのかもしれなかった。
世怜奈先生には理事会より、今後一切、無断で取材を受けないようにとの通達がなされたと聞く。世間の注目を浴びることで、サッカー部の廃部に支障が出ることを恐れているのだろうが、運命の試合にテレビ中継が入るという流れはもう変えられない。
望むにせよ、望まないにせよ、次の戦いは歴史を変える一戦となるのだ。
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