第二話 亡者の啓蒙(4)


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 結局、その日も先生は生徒との雑談に終始して、二時間を過ごしていた。

 おにたけ先輩のやり方に対しておりが異を唱えたものの、結果的に状況は悪化しただけで、最低な雰囲気を引きずったまま、放課後の練習は終わりを迎えることになる。

 疲れた顔で帰途につく選手を先生と共に見送っていたら、最後に残ったのは鬼武先輩だった。

「自分にたてつくガキが無様に孤立する姿は、見ていてさぞかし気分が良かっただろうな」

 憎悪を隠しもせずに、先輩は世怜奈先生に対して吐き捨てる。

「俺はどれだけ邪険にされても辞めねえぞ。人望の無さを突き付けて、てっとり早く追い出したかったんだろうが、干されても、孤立しても、絶対に辞めない」

「誤解があると思うな。私、しんすけに辞めて欲しいなんて思ったことないよ」

「意地でも全員をファーストネームで呼ぶ気らしいな」

「慎之介とも距離を縮めたいからね。そうだ。せっかくだから一つ聞いて良いかな。どうして君は友達が皆辞めたのに、一人でチームに残ってくれたの?」

あしざわ監督の哲学を否定したあんたが大っ嫌いだからだよ。馬鹿でも批判は出来る。口先だけの女なら許さない。俺は最後まであんたを見張ってやる」

「そっか。それはちょっと嬉しいかも。動機なんて何でも構わない。真剣に向き合ってくれるなら大歓迎。ついでに、もう一つ質問。どうして一年生にあんなに冷たく当たるの?」

「あいつらがウドの大木だからに決まってんだろ。軟弱者の根性無しばっかりじゃねえか」

「軟弱者か。それって悪いこと?」

「サッカーを何だと思ってるんだ? フィールドは戦場だぞ」

 お手上げだとでも言わんばかりに先輩は両手を宙に上げる。

「夏の合宿で、夜遅くに一年が集まっていたことがあった。乗り込んでみたら、こいつら全員で映画を観てやがったんだ。しかも『小さな恋のメロディ』とかってタイトルの訳分かんねえ恋愛映画だ。何で合宿の夜に二十人も集まって、甘ったるい映画を観なきゃなんねえんだ」

「私は好きな作品だけどな。メロディ・パーキンスがとっても可愛かわいいし、ブリティッシュスタイルって雰囲気あるものね。誰が観ようって言い出したの?」

「伊織です。あいつ、昔の映画が好きで、合宿の度にDVDを持って来るから。前日は『風と共に去りぬ』で、全員が寝不足になりました」

「そんな時間の使い方をしてるから伊織は駄目なんだ。合宿は戦いの場だぞ。レギュラーを蹴落としたいなら、控えにもゲームのチャンスが沢山ある合宿の場しかねえ。伊織は体格に恵まれている。スピードもテクニックも認めてやっても良い。だけどな、飢えてない奴は成長出来ねえ。お利口なだけの優等生に最前線は務まらねえんだよ」

 ワントップを採用している限り、伊織は鬼武先輩に勝たなければ試合に出られない。

「なるほどね。慎之介が一年生に冷たく当たるのは、思いやりが動機ってことか」

「……今の話をどう聞いたらそういう解釈になるんだよ」

「私を見張るために部に残ったって言ったけど、見ているのはこっちも同じ。慎之介がサッカー部であり続ける限り、最大限に能力を引き出してあげたい。成長の余地が沢山残っているのは、君だって同じだからね」

 世怜奈先生のしんな言葉に対して、鬼武先輩は面白くなさそうな顔を見せるだけだった。



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