鬼滅の刃に物足りなさを感じる理由

タイトルに書いた通り、今から「鬼滅の刃」に対して批判的なことを書きます。

同作を好きなかたがこの記事を読まれると、ご気分を害される恐れがあります。ご注意願います。

また、もう一つ断っておくと、自分は「鬼滅」の原作やアニメを全部読んでor見ていません。アニメ一期を二クール目の最初まで見た後、今やっている二期を見ているのみです。そこまでの知識に基づいて書きます。


前置きが長くなりましたが、自分も「鬼滅」はある程度好きです。

なぜなら、

・正義感が強くて前向きな主人公や個性的な仲間たちは見ていて気持ちがいいし、

・毎回個性的な能力を持つ鬼が出てきて、それを主人公たちが生身の肉体と刀だけで攻略するバトルは面白いし、

・アニメ版の映像美や梶浦由記氏の音楽で迫力満点に描かれた戦闘シーンには燃える

ので、それなりに楽しめているからです。


それでも「鬼滅」を物足りなく感じるのは、ずばり、

「安心感がありすぎるから」

です。

それには、以下の三つの理由があります。


1.スケールが小さい

まず「鬼滅」の物語は、例えば「進撃の巨人」みたいな、全人類の命運がかかった戦いではありません。

現実の大正日本に近い世界に隠れ住む鬼の集団がこそこそ人間を食べていて、(もちろん一人一人にはかけがえのない人生があるのですが)一握りの運の悪い人が犠牲になるだけです。

だからどうにも、小さくまとまった感じがするのです。


2.善悪への問いが乏しい

「鬼滅」からも一応、

「単純な勧善懲悪の克服」

を描こうとしている感じは、なんとなく伝わってきます。

例えば敵の鬼たちにもかわいそうな事情があるやつはいるし、主人公もそんな彼らの悲しさには理解や同情を示します。

それに主人公をはじめとして、鬼を狩る秘密の組織・鬼殺隊のメンバーたちも、「鬼たちへの復讐心で頭おかしくなった人たち」として描かれてはいます。


しかし残念ながらそれらの要素が、例えば、

「鬼たちも読者・視聴者が共感できる正義を主張する」

「復讐に狂った鬼殺隊が一般人を巻き添えにしてでも鬼を殺す」

「(結局は鬼を滅ぼすとしても)主人公たちが自分たちの正義を疑う」

「むしろ主人公が鬼たちとの共存を探り出す」

みたいな、「正義の鬼殺隊vs悪い鬼たち(ここでは詳細は割愛しますが、正確には一番悪いのは、鬼たちのボス・無惨です)」という善悪の構図を問い直させる展開に発展する気配がありません。

そういう意味で、善悪の描きかたについての踏み込み不足を、率直に言えば感じます。


3.ピンチも小さい

1.とやや重複して、2.ともやや関連してきますが、今のところ「鬼滅」にあまり大きなピンチを見たことがありません。

主人公は毎回の戦闘でそれなりに苦戦するのですが、いつも初見の敵に一度きりの戦いで勝てています。

そして「鬼滅」の物語全体が基本的にはそういう、

・新しい鬼が出てくる→主人公が初見で倒す

のパターンの繰り返しです。

よって、

「実は味方組織の中に黒幕がいた!」

「実は主人公たちは悪役の掌の上だった!」

みたいな、物語の結末自体が不安になるレベルのピンチを、少なくともその気配を、今のところ感じません。


以上三つの要素のために、どうにも「鬼滅」には、

「正義の味方が悪者を成敗してめでたしめでたし」

という予定調和的な結末が期待しやすいのです。

言い換えると、

「この世界と主人公たちはどうやったらハッピーエンドにたどり着けるんだ!?」

という、物語全体に対するはらはら感が持てないのです。

そういう意味で、「安心感がありすぎる」と申し上げました。

ただ、リアルが何かと先の見えない不安な時代だから、予定調和的な安心感を与えてくれる物語も必要なのだろう。それが「鬼滅」が受けている理由の一つだろうと、自分は勝手ながら推測しています。


アマチュアのクリエイターの分際で偉そうに批判しましたが、「鬼滅」は間違いなく、日本の漫画・アニメの歴史に残るレベルのヒット作です。

だから、今自分が知っている範囲でも、それに対する本音を書きたかったのです。

自分が「鬼滅」の物語の全てを全部読む・見る機会を得られたら、ここに書いた物足りなさを覆してもらえれば嬉しいです。

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