第70話
退院し、以前のように学校へと通う。何度も死にかけたり、大変な目にあった英雄なのに、クラスメートが俺を見る目は冷たい。どうやら、指名手配されていた事実だけは、しっかり噂として流布されているらしい。
今日も一日ぼっちっち。
でも、かまわないさ。俺は一人でも戦える男だから。
そんなことを考えながら、帰路につく。
無人タクシーを使って帰ってもよかったが、アカシックバレットのせいで、けっこうな額の金が消えていってしまった。
それでも、まだ手切れ金は残っているが、五千万円の借金は残っている。どうやって返していこうか考えると、途端に気分が憂鬱になってしまった。
これは本格的に妖害討滅で金を稼ぐしかないかもしれない。討滅報酬が百万を越える案件もあるし、それを一人でこなすことができたら、五十回で五千万円になる。そんな単純な計算を頭のなかでしていたら、ふと、なにか境目を踏み越えたような感覚に襲われた。
ああ、これはミーム拡散力場だ。
悪鏖王鈴木三九郎や覇眼王リスカ・ミリアム・イリアステルと対峙した時の感覚を思い出す。とはいえ、あの二人から受けた雰囲気とは違う。
え? また十王戦旗の誰かと遭遇したのか?
「……フッ、しかたがないか」
かー、やっぱ強者は強者を呼んじまうって展開は王道だもんな。
とりあえず、立ち止まって、かっこいいポーズをキメつつ、いつでもステージ1の能力を発動できるよう構えた。
「刀義くん」
不意に背後で気配。驚いて振り返れば、黒髪ロングの美少女が立っていた。どこかで見たことのあるような顔だ。しかしながら、こんな美人に知り合いはいない。切れ長な目でスッと通った鼻筋。顔が小さくて華奢なくせに、体幹にブレがないせいか、存在感が強い。和風美少女だ。
そんな美少女が俺を見て、嬉しそうに微笑み、首に腕を回しながら抱き着いてきた。なにがすごいって、俺の通信空手の自動迎撃が発動しない。というか、マジで動けなかった。なんか達人みたいに初動が読めない動きだったんだけど?
「記憶を無くしたって聞いたから心配してたんだよ。でも、すごいね。きちんとお姉ちゃんの命令どおり、動いてくれたんだもん」
脳がとろけるようなウィスパーボイスだ。俺は声豚じゃないが、マジで声に恋しかけた。なんだ、この声。脳が蕩けるんだが?
「お姉……ちゃん?」
「きちんとスパイできたんだもんね、偉い偉い」
首に回していた腕をほどき、俺の頭を撫ではじめた。
「米軍もテロリストも官憲も、刀義くんのおかげで牽制できたし……」
瞬間、全てを悟った。
マンティコアや行方不明事件で神門刀義が動いていた動機やら理由が俺にはわからなかった。でも、今、わかった。
「偉い人たちも喜んでたよ。神門の間者は質がいいって」
神門刀義はダブルスパイじゃない。
トリプルスパイだ。
神門を筆頭にした日本古来の異能力組織が、真の飼い主だったんだ。
確かに今回の件で損をした組織はわかっていた。米軍とテロリスト、そして警察だ。テロリストは壊滅させられたし、米軍は実験をつぶされた。警察はテロリスト逮捕の件で米軍を含めた十王戦旗に貸しを作らざるをえなくなった。
逆に得した連中もいなかったと思っていた。でも、この損した連中と敵対関係にある連中は、得したと見ることができるだろう。
十王戦旗の中には日本古来の異能力者をトップに据えている組織がある。
神門刀義は、その王とのつながりはなかった。
だが、神門家を通して間接的なつながりを持っていたわけだ。
「刀義くんのおかげで物部家に貸しが作れたよ」
物部家って、たしか十王戦旗のうちの一人に、そんな名前の人がいた気がする。やっぱり神門刀義は——
「これで神門の宗主戦選をはじめられるよ。このエイシアで」
——神門家のために動いていたってことになる。
それこそ勘当というのは神門刀義をエイシアに放り込むための狂言。クズな言動も全ては世を欺くための仮面……。
「私と刀義くんで、日本を裏から支配しようね。大丈夫だよ。お姉ちゃんと刀義くんがいれば、敵なんていないもん」
抱擁を解いて真正面から俺に微笑みかけてくる。なにか喋ろうとした俺の口がふさがれた。舌べろが俺の口内に侵入してきて、蹂躙される。え? これ、ディープキス? 実の姉弟なのに? なにそれ? これ、もう既に一線も二線も越えてる関係値ぢゃん!! なにそのリアルエロ漫画みたいなただれた性活!! 死ねよ、神門刀義!! 羨ましすぎるんですけども!?
ちんこが勃起しかけるなか、俺は「この姉弟、マジでインモラルぢゃん」という感想しか抱くことができなかった。
※いったん、ここで完結です。
アカシックバレット ~寝れば寝るほど強くなる異能力を駆使して底辺クズ野郎から最強に成り上がる~ TANI @aiueo1031
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