第68話
自然と目が開いた。
かすれた視界には見慣れない白い天井。うろんな思考が明瞭になるにつれ、倦怠感が襲ってくる。
「兄ぃぃっ!!」
叫びとともに涼葉に抱き着かれた。
「いきなりひっついてくるな。点滴が取れるだろ……」
自分の声の小ささに驚く。五日ほど昏睡状態にあったのだから無理もないか。
「離れろ、重い……」
「はあ? 重くありませんが? 強いて重いというなら、ボクの兄ぃへの愛情だね。ずっとボクが看病してたんだかんね!!」
「学校行けよ」
「一人で登校できるわけないじゃん? バカなの?」
開き直りもここまでくると、いっそ清々しい。
「キリエと八重塚は?」
「キリエたんは平気。なんか、兄ぃが起きたら、しばくって怒ってた」
無理もない。催眠術で強引に眠らせたからな……。
「淡海たんもぜんぜん大したことないよ。ただの致命傷だから」
「たいしたことあるじゃん!」
「大ケガはしたけど、命に別状はないってさ。兄ぃが寝てた時、御見舞いにも来てたよ」
ホッと一安心する。
八重塚が無事なのは知っていた。
とはいえ、それを教えてくれたのは、八重塚をボコボコにした本人、鈴木三九郎だったから、心配だったんだよな……。
「で、お前は大丈夫だったのかよ?」
「ぜんぜん大丈夫じゃなかったんですが? 兄ぃのせいでクラッキングしてたのもバレて余罪ついたんですが? はあ、マジ、ありえんし。これは責任とって結婚しないといけないムーブだな。ほら、婚姻届け書いておいたから、あとは判子押すだけだよ」
差し出された婚姻届けをノールックで無感情に破り捨てた。
「余罪ついたのに、どうして出所できたんだよ? さすがにクラッキングはアウトだろ」
「そんなの誤認逮捕だったからに決まってんぢゃん?」
「自然に事実をゆがめるなよ」
「腹が立ったからSNSでエイシア署に関するネガティブ発言しまくってやった。いやー、ネット上、燃えてる燃えてる。マジ、ウケる。腹筋が痛くなるほど笑ったよ。連中もこれで誰を敵に回すと怖いか、理解しただろうねwww」
「どうして自ら捕まりに行くムーブをするの? あのな、警察が見逃してくれたのは、他のいろんな圧力があってだな……」
主に米軍からの圧力だろう。これで俺はマクスウェル大佐と警察に大きな貸しを作ってしまった。そんな俺の苦労も知らずに涼葉は、携帯端末でネットが炎上している様を見せてくる。こいつ、また捕まるんじゃねーか?
「まあ、それはそれでいいか……」
「今、人知れずボクのこと切り捨てた? なんかそんな波動を感じたんだけど?」
「捕まりたくなければ、これ以上、ネット工作でエイシア署を燃やすのやめろ」
「見て見て、学校裏サイトで兄ぃへのクソ罵詈雑言みつけたよ。マジ、クソウケるんですけど? 悪口しか書かれてないよ?」
「病み上がりにそんなもん見せようとすんじゃねーよ! 殺す気か!?」
元気そうでよかったけど、やっぱり心底マジクソムカつく涼葉だった。
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