第67話
桐ケ谷先生のおっぱいを揉んだことでIQ400になった俺は、新たな情報をパズルのピースのようにつなぎ合わせた結果、新たな真実を得るに至った。胸を揉みながら。
なんだ、これ。ぜんぜんかっこよくねー!
いや、おっぱい揉めたのは嬉しかったけどさ、違うんだよな!!
そういうのは愛がないとダメだと思うんだよ!! だいたい「幸せになってくれ」っておっぱい揉みながら言う男を信用できるかい? 俺だったら信用できないよ。
ともあれ、みんな仲良く助かる方法を思いついた俺は、桐ケ谷先生と別れてから米軍基地に潜入していた。
さすがの俺も米軍基地に潜入することになるとは思わなかったよ。
てか、けっこう行けるもんなんだね。
認識阻害とエメラルドスティングを使えば、様々なセキュリティーをかいくぐれた。やっぱり
というわけで、俺はとある大佐の執務室にまで来ていた。
明かりのついていない社長室みたいな部屋だ。なんかマホガニーとかいう木でできていそうな豪華な机に、金色のネームプレートが置かれていた。そんな窓のない部屋で一人、パソコンの前に金髪男性が座っている。扉が開いてもディスプレイから顔をあげずにキーボードを叩いていた。
「……気づかないと思っていたのか?」
予想外なことに日本語で話しかけられた。認識阻害をしているのにだ。
「君と直接会うのは一年ぶりか……」
言いながら顔をあげる。三十代から四十代の男性だ。軍人だけあって筋骨隆々としているし、眼光は鋭く、隙がない。
「なにしに来た? 返答によっては良くない結果になるぞ」
「つれないことを言うじゃないか、ボス」
アシュレイ・マクスウェル大佐の視線がさらに鋭くなった。
「……記憶を取り戻したのか?」
「一部ですが……」
嘘である。
だが、いろいろ情報を組み上げていった結果、とある一つの答えに至った。
「俺は米軍の現地エージェント。いわゆるスパイだってことまでは思いだせました」
CIAなんかが諜報活動を行う際、現地の人間を駒として使う。それが現地エージェントだ。俺の場合、ボスはCIAではなく米軍。もっといえば、熾典王アシュレイ・マクスウェル大佐の駒というわけだ。
いやはや、まさか、十王戦旗のうち三人と知りあいだったとはな……。
「答え合わせをしてもよろしいでしょうか、ボス」
「好きにしたまえ。私も好きにさせてもらう」
マクスウェル大佐が再びキーボードを叩きはじめた。
「まず昔の俺の目的はエイシアに潜んでいる黒の福音メンバーに接触すること。更に付随して他の十王戦旗や日本土着の異能力者たちからの情報をボスに差し出すことです。あってますか?」
マクスウェル大佐はなにも答えない。無言は肯定ととらえよう。
「そして、俺は黒の福音メンバーとの接触に成功した」
最初から末端メンバーの情報を米軍は持っていたのだろう。
行方不明になった十五名は最初からマクスウェル大佐に身元を特定されていた。
神門刀義が十五人と接触していたのは、元から米軍の情報だったのだ。その情報をもとに黒の福音に接触し、情報を手に入れるのが目的だ。
「だが、君は情報を寄越さなかった」
「申し訳ありません。まだ時期尚早だと思ったんです」
マクスウェル大佐の目的は黒の福音幹部を突き止めることだ。末端構成員をどれだけ特定しても根本から潰さなければ意味がない。
「いろいろ動いていたら、誰かに刺されて生死の境をさまよい、結果、記憶喪失。不運が重なりましたよ」
「私は君がテロリストに転んだと思ったよ」
「マンティコアにテロリストたちをけしかけたからですか?」
マクスウェルは無言だ。
マンティコアを使って人体実験に使う人間を集めていたのは米軍だ。これは事実だろう。そして「米軍が異能力者を使って人体実験の材料を集めている」といってテロリストたちをけしかけたのだろう。もし、この事実が明るみに出れば、エイシア内での米軍の動きを抑制できる。結果、テロリストたちは動きやすくなるわけだ。
失敗したけどね。というか、神門刀義は最初から成功するなんて思ってなかったはずだ。
「一挙両得だと思ったんですよ。マンティコアの情報をテロリストに流すことで幹部に俺の名前を売れるし、邪魔なテロリストは消せます。そのうえ、実験の素体も集めやすくなったじゃないですか」
言いつつ反吐が出そうだった。
実際、神門刀義がそう思ったかは知らない。でも、クズなら、それくらい考えると思う。
「おかげで黒の福音幹部の信頼を得ることができました。それこそ偽者ではなく本物のね」
「本物?」
さて、ここからが本番だ。
「黒の福音幹部の名前は木村宗次。彼の能力は高いレベルでのマインドコントロール。それこそ、強引にテロリストに転がせることができるほどのね。厄介な力ですよ。なんなら、末端の構成員全て、その能力の被害者だったかもしれない」
「木村宗次……木村為継の息子か?」
「木村為継?」
「エイシア議会の議員だ。なるほどな……」
あいつ、けっこういいところのお坊ちゃんだったのか……。
「裏取りはお任せします。泳がせるにせよ、拘束するにせよ、急いだほうがいいです」
「なぜ急ぐ必要が?」
「この情報、鈴木三九郎からもらったんですよね。彼、既に動いてます」
嘘である。
ただ、実際、ここに来る前、俺は鈴木三九郎と遭遇している。
当然だ。彼はもともと俺を殺すつもりで追いかけてきていたのだから。
その時、鈴木三九郎に黒の福音幹部の名前を伝えて口裏を合わせただけだ。八重塚を倒した鈴木三九郎と手を結び利用するなんて、なかなかに外道な策だけども、そうするしかなかった。
自称正義の味方は、いつでも悪の血に飢えている。だから、当然……。
「今頃、木村宗次は消失してるか。あの狂人め、余計なことを……」
十中八九、木村宗次を斬り殺しにいっているだろう。そうすることで俺の無実が証明されれば、まだ強くなってない俺を殺さないで済む。そういうロジックで彼は動くのだ。
「更に上の幹部へつながる情報を得ることはできませんでしたが、エイシアにいるテロリストを一掃できたのは作戦どおりでは?」
「君の勝手な行動により、当初の目的は達成できそうもないがな……」
「ボス、お言葉ですが、木村宗次を消すのは鈴木三九郎ですよ?」
「なぜ、鈴木三九郎がお前に情報を流す必要がある?」
「あとで調べてもらえればわかると思うんですけど、俺、あの狂人に気に入られちゃいまして、彼の強くなったら殺すリストに入ってるんですよ」
マクスウェル大佐は俺をジッと見てから苦笑を浮かべる。
「……こういう時、日本ではご愁傷様とでも言うのか?」
「で、彼が俺にこの情報をくれたのは、この情報を俺がボスにもっていくことで、ボスが今の状況を解決してくれるって言ったからです」
「たしかに、我々は今回、君に対する指名手配に関して裏で動いていた。君の暴走のせいでテロリストの情報は警察や他の戦旗にも漏れてしまったしな。最終的に君の身柄はこちらで確保し、内々に処理するつもりだったよ」
「ですが、俺が裏切ってないってこと、これで証明されましたよね?」
「……証明されてはいないし、君を生かしておく理由がない」
空気の密度が変わった。この場で俺を消す気みたいだ、おっかねー……。
これだから王様ってやつは……。
「ですが、俺が死ねば、あなたは鈴木三九郎の獲物を横取りしたことになる。あの狂人は、きっとあなた方に噛みつくでしょうね。忘れましたか? 二人の王を斬った狂人に、あなた方米軍がどれだけ被害を受けたか」
マクスウェル大佐はため息をついた。
「これだから能力者は厄介だ。特にあのサンクローは……」
そう言ってから続ける。
「まあいい。なら君は好きにしたまえ、トーギ。我々は率先して君を害する気はないが、庇う気もない」
勝手に死ねということらしい。ほんと、現地エージェントの扱いってひどいよね。結局、切り捨てられる駒でしかないわけだ。だからこそ、自衛のための情報は必要だと思う。
「たしか次のアメリカ大統領選挙って、そろそろですよね? 特に現職は異能力者の社会貢献や人権に関して様々な公約を掲げてましたっけ?」
ニコリと微笑みながら言った。
そんな時期に米軍の、しかも異能力者に関わるスキャンダルは、絶対に避けたいだろう。人体実験なんて、異能力者に関わらず人権的に問題が多いんだしさ。
「俺は悪鏖王や覇眼王とつながりがあります。今、俺の持ってる情報をうまく使えば、俺の無罪は証明される。本当なら、今すぐ、あんたのそのすかしたイケメン面に一発ぶちこんでやりたいくらいだ」
自分一人だけの問題なら、そうしていただろう。こいつらの人体実験やらなにやらを許す気なんて俺にはない。
でも、巻き込んでしまった連中まで俺のわがままにつきあわせるわけにはいかないじゃないか。ちくしょう、クールじゃねー。
「……ですが、我慢します。俺はあなたがたアンクル・サムを敵に回したくないし、これからも可能なかぎり仲良くやっていきたい」
本心だ。少なくとも涼葉の無罪だけは勝ち取らなければならない。
「ボスのケツにキスしろって言われれば、喜んでしますよ。俺の家族や仲間を救えるんであれば、どんな情報だって引っ張ってきます」
マクスウェル大佐はしばらく無言で俺をにらんでから、机の上に置いてある電話を取った。そのまま英語で数分ほど何やら伝え、電話を置く。
「……警察に事件の真相を伝えるよう連絡した。明日には君や君の関係者への容疑も解かれるだろう」
真相というか、米軍にとって都合のいいシナリオだろう。まあ、そのシナリオによって俺や涼葉にキリエ、八重塚、桐ケ谷先生が救われるならかまわない。
俺はマクスウェル大佐にめちゃくちゃ嫌われるけどね。ほら、現に不機嫌突破したような顔してるじゃん。自己催眠でメンタル強度保ってなければ、ブルっていただろう。
「ありがとうございます、ボス。感謝します」
「次の任務は追って伝える」
「サー、イエッサー!」
敬礼なんかしてみた。
「トーギ、二度と私のオフィスをノックするな」
「はい。わかってますよ。あ、それと……」
もう少し嫌がらせをしてやろう。
「すみません、これからぶっ倒れます。五日ほど目を覚まさないと思うので、どこかテキトーな病院に放り込んでください」
瞬間、意識がブラックアウトした。
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